無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

守備の達人・金子誠打撃コーチが語る「攻撃の意図」。

 11月23日に北海道日本ハムファイターズのファンフェスティバルが行われました。僕自身も札幌ドームで楽しませてもらったのですが、今回のファンフェスはCSのGAORAで生中継されてました。その中で、選手やコーチにいろいろと話を聞くコーナーがあったのですが、金子誠一軍打撃コーチが実況席に来て話していた内容が非常に面白かったので書き起こしてみます。金子コーチの他、GAORAでファイターズ戦の実況を行っている近藤祐司さん、ガンちゃんこと解説の岩本勉氏です。

近藤「改めまして金子コーチ、お疲れ様でした。」
金子「お疲れ様でした。ありがとうございます。」
近藤「11月のこの時期というのは、準備の方も始まってはいるんですけども、気持ち的には選手たちも日本一の喜びを味わってもいい時期なんですか?」
金子「シリーズ終わって、すぐに秋季練習入るんですよね。で、あとは侍JAPANに行った選手もいますので、まあひとつそこで区切りはついているのかなと。翌年に向けてのいろんな取り組みはスタートしてる段階なので。この時期ですね、このファンフェスティバル、それから皆契約っていうのを終えてシーズンオフに入っていくような感じです。」
岩本「来季の準備で言ったところでね、今CM中に金子コーチはこのバブルサッカー、これ新しいトレーニングになるんじゃないかと思わずつぶやいたという。」
近藤「選手たちも汗だくになってましたよね。」
金子「中田翔があれだけ汗かくって、シーズン中もなかなかないですから(笑)。シーズンオフは何かいいトレーニング方法ないかなって模索するんですよみんな。北海道に移転してきた当初は雪かきですか、雪おろし。あれトレーニングにいい作業だなって思ったこともあります。なかなかトライする機会無かったですけど。」
(中略)
岩本「金子コーチ、今日新加入の選手で太田泰示選手の挨拶がありましたけど、来年期待寄せる部分も大きいんじゃないですか?」
金子「秋季練習から鎌ヶ谷でい一緒にいろんな話を聞きながらやったんですけども、ポテンシャルものすごい高いんで。なんとか札幌ドームでね、この広い外野を縦横無尽に走る能力がありますので。楽しみというか、活かしてあげたいですね。」
岩本「長打力もありますもんね。」
金子「ホントに飛距離は、このチームでも上から数えた方が(早い)。飛ばす方ですよ。」
岩本「状況によって、彼の調子によっては、パリーグはDH制がありますから。複数の打席を任せることも増えてくるかもしれませんね。」
金子「そうですね。もちろん、守備力もそうですけど身体能力もそう。あとはジャイアンツで10年弱やってきていろいろ取り組んできたことがあると思うんです。それも自信を持ってファイターズでも活かしてくれればいいかなと思いますね。」
岩本「本人も新しい自分を表現したいというようなコメントも残してますしね。楽しみですよね。」
近藤「往々にして金子さん、選手って環境が変わったり、はたまた指揮官が変わったり、打撃コーチが変わったりで一気に何か違う側面が見えてきたりしますよね。」
金子「そうですね。置かれてる環境、僕はファイターズ一筋でしたけど―ひとつ北海道移転っていうのが僕にとっては大きな転機にもなってますし、監督も6人変わってるんですね、コーチもそれとともに変わってますけども。もちろんあるのは自分のポテンシャル、自分の野球スタイルっていうのをまず大事にしてほしいなっていうのもあるんですけども、そのチャンスがあったり、チャンスを生かす場っていうのがいかにあるか、そこをどうやって生かせるかっていうのはあとは本人なので。僕らはその手助けをしていきたいですね。」
岩本「本人という意味ではそれぞれの選手が出場意欲とか、いろんな欲を持ってトライしてほしいですよね。」
近藤「今シーズンは金子コーチを見ていると特にファイターズ全体で言いますと、攻撃で言えば集中打があって、一気に集中力を発揮してビッグイニングを作って逆転したという試合があったんですが。その中で金子コーチがバッターにこう寄って行って一言声をかけて打席に送り出すケースが多かったんですけども、こういったケースはどういうアドバイスになってくるんですか?」
金子「まあ、一番多いのはピッチャー交代のタイミングの時かな。そういう、話す時間があるのは。僕、現役の時はネクストバッターで集中してる時にあまり話しかけられるのは好んでなかったので。そう見えるなって選手にはあまり近づくこともなかったですし。あとは場面ですよね。打席に入る上でこういうのあるのかなああいうのもあるのかなって迷いながらだとやっぱ選択肢が狭まってしまいますから。なるべくシンプルに打席に入れるような声掛けですか。求めてなければ全然スルーしてますけど。あそこにいるとね、ネクストバッターだと一球一球状況変わってきますから。ちらっと目が合ったりすることあるんですよ。そういう時は監督に確認しながら、僕なりの言葉で伝えてきたケースは何回かあります。」
岩本「バッターと目が合うということはバッターも何かちょっとワンポイント欲しいなと思ってる時かもしれませんしね。」
金子「そうですね。特にね、うちバントが多かったじゃないですか。バント多かったのは(声を)かけられた選手なんですよ。その選手に対しては迷いなくバントっていうものがあったんですけども。時々その、バントもあるのかなっていう場面の選手いますよね。で、そういう時にノーアウト一塁、ボールツーになりましたとか、相手の流れでノーアウト一二塁になったらどうするんだろうってバッターが感じる時もあるんですよ。で、そういう時にノーアウト一塁で打つケースもありましたし、送ったこともある。送った成功失敗っていうのはまた別にして、そこでトライすることの意味がたくさんあるんですけど。そこですね、バッターに対して声をかけたのは。ノーアウト一塁はもう思い切って打ってほしいと。で、試合後になんであそこで打たせたかっていうのは後で解説することで次に回ってきたときにまた楽な気持ちで、プレッシャーかかる場面ですから。バントって成功率が大事ですけど、ノーアウト一塁での成功率って半分くらいしかないから、12球団でも。で、そういうのがみんな腹ではわかってるんで。プレッシャーかかるじゃないですか。それを少しでも取り除くきっかけになればいいなと思ってやってたんですけれども。」
岩本「なるほどね。まあ、いろんなケースが予想される中で頭でっかちにならないよう迷いをちょっと無くしてあげるようなアドバイスだったんですね。や、でも僕印象的だったのは味方がカーンと同点タイムリー、逆転タイムリーとか打って。ベンチがワッと盛り上がるじゃないですか。その時に金子コーチはワッと盛り上がってる横で一人険しい顔で相手ベンチを見たりとか、相手チームを見たりとか。状況を確認してる姿がすごく印象に残ってるんですよ。」
近藤「金子さんは去年、パドレスに行かれてる1年間は合間にGAORAでも解説していただきましたけど、本当に細かいところまで野球を見てらっしゃって。どうですか?それがコーチとしてしっかりと生きた1年だったと思うんですが。」
金子「いやいや(笑)。もちろん、去年1年間させていただいたことは自分の中で引き出しにはなっているんですけど。これ、いろんな先輩方からも言われたんですけど、こう上から、解説席から見るのと現場では全然違うぞと言われてきたんです。全然違いますねやっぱり。実際同点タイムリー逆転タイムリーって出ても、喜び…喜んでるんですよ?もちろん。もちろん喜んでるし興奮してもいるんです。だからついつい次にとるべき行動を忘れてしまうことも多々ありました。」
近藤「まあしかし今季はホークスも大敵であったという中で、ホークスもしっかり打ちましたし、そういった意味ではしっかりと結果を残せた1年ということになりましたね。」
岩本「一番の刺客であったホークスに対し打ち勝ちもしましたし、守り勝ちもしました。バッティングコーチされてましたけど、まあそこは守備の達人金子コーチ。ディフェンス面で選手からのアドバイスを求められることはありましたか?」
金子「いやいや。そこは僕は言っては…」
近藤「打撃コーチは打撃のことをというわけなんですね。」
金子「やっぱり毎日試合は続くわけで、今年は監督が本当にホークスとの試合に対してものすごくエネルギーを注ぐ部分がチームとしてもあったので。何とかしなきゃいけないじゃないですか。まあ一番はバッテリーが立ち上がりを大事にしてくれましたよね。逆転が多いっていうんだけど、5点6点を逆転した試合なんてほとんどないんですよ。2点3点なんですよね。それで凌いで行ってくれることで、要はバッティングコーチだったらこの先発をどうにかしてして打たなきゃいけないとチームとして思ってしまうんですけど。その試合に勝つにはどうしたらいいかって考えた時に何も先発に対して躍起になって打ち崩すのではなく、その日のホークスに勝つにはどういう風に攻撃していったらいいか、守りも含めて。コーチ陣もそうですけど、選手もそういう視点に立てたのはCSや日本シリーズにつながったのかなと思います。」
岩本「なるほど。例えば相手チームの先発ピッチャーがすごく調子よかったら、継投に移った時に「さあ何か変わるぞ」っていうような掛け声もあったわけですよね。」
金子「そうですね。あまり例を出したくはないですけど、なかなかどの球団も打ってない先発投手がいるじゃないですか。ホークスにも何人も。で、継投に入ったらチャンスは出てくると思うんですけども、継投の後ろの方はノーチャンスですよね、やっぱり。」
岩本「強いのがいますからね。」
金子「だから先発に7回まで投げられてしまうと厳しいんですよ。打ててはいないけれども、先発を5回で降ろす、相手ベンチが球数とかで、どうしようかな6回まで行かせようかな、5回までで止めようかな、と思うような攻撃がたとえ0点でもできたら、6回7回ってチャンスが生まれるんですよ。それが日本シリーズで表わされてると思うんです。」
岩本「そういう展開が多かったですね。」
金子「そういう野球は、交流戦15連勝しましたよね。その中盤くらいから「ああ、先発いいピッチャーだな。じゃあ今日は粘って行こう。」みたいな、自然な流れができてきましたよね。」
岩本「なるほど。もうお手上げ、じゃなくて粘って頑張っていれば何かが起きると。」
金子「はい。」
岩本「でも僕らね、中継していて、スコアつけてて今言われてることがその通り目の前で描かれてましたからね。」
金子「だからそれを一発で仕留められるバッターが初めからそれをやってしまったらいけないんですよね。でもそれができるバッターがファイターズは半分くらいいるんですよ。その選手たちが、犠牲になるんじゃないけれど、まあもちろんベストはランナーがいれば返す。ランナーがいなければメイクチャンスっていうのがベストなんだけど。ランナーがいる時、例えば一死二塁。もちろん返してほしいですよ?でも相手がちょっと上手だな、今調子いいなっていう時に、言い方としてはベターなアウトもある。」
岩本「アウトひとつの取られ方にもいろいろ種類があると。」
金子「そのベターなアウトっていうのはじゃあ何かって言ったら、もちろん粘った末に最後いい所投げられちゃったっていうのもまだベターだと思う。で、追い込まれたけれどもなんとかセカンドゴロで二死三塁にした。で、次が足のある左打者だったら内野安打で一点っていうケースもありますよね。もちろんランナー二塁のままだったら外野手前に出てきちゃうから。それを考えた時に、セカンドゴロでも拍手して迎えてやる。それがベンチ全体で出来るようになってくると、これ、僕が相手チームとして守ってても例えばさっき言った一死二塁で、相手バッターが苦しんで苦しんでセカンドゴロで二死三塁になった。次のバッターが足のある左打者だったら、僕がショートなら嫌です、やっぱり。
岩本「なるほどねー。それは守備の達人として、それを全て把握できてるから攻撃に活かそうと、どんどん戦力に変えていってくれたんでしょうね。目の前で起きてたことの根拠をこうやって喋っていただけるとありがたいですね。」
近藤「1年の経験を積んで、来季はさらにまた金子コーチの視野も広がってることが期待できそうですね。」
金子「やっぱり今年は、どちらかというと何をやってきたかなっていう反省も生まれないような感じなんですよね。もうちょっとこういう風にできたんじゃないかなって思う事もたくさんあるんだけど、何にもしてないのにこうやって選手たちが伸びていくってなったら、何もしない方がいいんじゃないかって思ったり(笑)。」
近藤「それは究極の指導ですよね。」
金子「まあ城石コーチとね、いろいろ話しながら。また城石コーチが選手ともたくさんコミュニケーション取ってますし。あとはまあ、勝ってるからかもしれないけど、全体的に雰囲気はいいですよね。」
近藤「確かに城石コーチと金子コーチ、どちらも打撃コーチですけれどバランスが絶妙ですよね。マスコミ対応の城石コーチ、金子さんはしっかりこう(内部を)。」
金子「(笑)マスコミ対応って、誰にも話を聞かれないから僕は(笑)。」
近藤「金子コーチはオレに話しかけるなオーラがフィールド上ではすごいんですよ(笑)」
金子「引退した時に角を取りますって言ったけど、角張りましたね、余計に(笑)」
近藤「解説者の時の、いろいろと説明してくださる金子さんが、コーチになられた瞬間勝負師になられますんでね。」
金子「でもどっちかって言ったら僕も城石コーチも守備的視野の部分が多いんですよね。」
岩本「そこが今僕聞いてて感心したところですよ。守っててこうだったらイヤだな、それを攻撃に生かすアドバイスに落とせるというところが逆転の視野ですよね。」
金子「城石コーチはヤクルト時代守備コーチでしたよね。昨年はファイターズのファームで打撃コーチをやってるんで、打撃コーチとしての視野も持ってるんですよ。僕はどっちかと言ったらまだ守備的人間だったので、そのままコーチになっちゃったから。打撃コーチなのにグラブしか持ってないし(笑)。」

 現役時代は堅守でチームを支えた守備的な選手だった金子誠が打撃コーチになったことを「?」と思った人は多かったでしょう。しかし、この話を聞くと守備的な観点が見事に攻撃に生かされていることがわかります。それこそがチームが金子氏に期待したことだったのでしょうし、また彼の野球観をさらに広げる経験になっているはずだと思います。それはつまり、来るべき監督就任に向けて広く野球を捉えることを期待されているのだと思います。現役時代から一貫した野球観と独自の理論を持っていた人なので、近い将来必ずその日はやってくると思います。

「サイレントマジョリティー」をめぐるアイドルたちの現在地についての一考察

 今年聞いたアイドルソングの中で最も衝撃的だったものの一つは間違いなく欅坂46のデビュー曲「サイレントマジョリティー」だ。大人たちに振り回され、群れて笑顔を振りまくことに対する疑問と葛藤を歌ったこの曲は、それこそAKBに代表されるアイドルグループに対する強烈なアンチテーゼだった。いずれにせよ秋元康によるマッチポンプと言ってしまえばそれまでだが、楽曲のクオリティーとともに、新たなアイドルのデビューとしては有り余るインパクトがあったと思う。


欅坂46 サイレントマジョリティ

 7月18日に放送された「FNSうたの夏まつり」の中で、AKBグループの各チームの中からエース級のメンバーを選抜して作られたスーパーユニットのパフォーマンスという企画があった。彼女たちが歌う曲はデータ通信を利用し、視聴者の投票で決められるというものだった。AKBの「恋するフォーチュンクッキー」「365日の紙飛行機」、乃木坂の「君の名は希望」を抑えて僅差で1位になったのは「サイレントマジョリティー」だった。各グループのファン以外も多数投票したであろう中でこの結果となったのは正直驚きであると同時に、「サイレントマジョリティー」という楽曲の力が一般に浸透していることの証左であるとも思った。「サイレントマジョリティー」を歌うと決まった時の彼女らは、笑顔の裏で様々な思いを抱いていたのではないかと思う。特に、乃木坂46のメンバーには忸怩たる思いがあったのではないかと予想する。

 前述した通り、「サイレントマジョリティー」はアイドルという虚構の世界で大人の言うなりに演じることの不毛さや疑問をテーマにしている。つまり、AKB48に象徴されるアイドルグループそのものに揺さぶりをかける曲である。それはアイドルの恋愛禁止に一石を投じた乃木坂46の「制服のマネキン」に通じる部分があるものとも言える。欅坂46のセカンドシングル「世界には愛しかない」も「サイレントマジョリティー」と同様のテーマを持つ曲だった。そして、楽曲としてもポエトリーリーディングをフィーチャーした非常に「攻めた」曲だったと思う。対して乃木坂の新曲「裸足でSummer」は駄作とは言わないものの定番の夏ソング。齋藤飛鳥の新センター抜擢というトピックはあっても、あくまでファン向けの話題でしかない。悔しかっただろう。乃木坂にしてみれば「サイレントマジョリティー」にしろ「世界には愛しかない」にしろ「私たちが歌うべき曲なのに!」という思いがあったかもしれない。


世界には愛しかない - Keyakizaka46.


裸足でSummer.

 「FNSうたの夏まつり」でのドリームチームのパフォーマンスに話を戻そう。このスーパーユニットのセンターに選ばれたのは乃木坂46生駒里奈だった。これがどういう経緯で決まったのは知らないが、指原莉乃山本彩松井珠理奈にしてみれば「なぜ自分じゃないんだ」と思ってもおかしくないだろう。かくしてこのスーパーユニットのパフォーマンスは華やかなエース級メンバーの共演というアベンジャーズ的なお祭りから一気に「シビル・ウォー」へと様相を変える。この中では正直、自分たちの持ち歌でありながら欅坂メンバーの存在感は薄かった。先輩たちへの遠慮もあったのかもしれないが、それ以上に「同じ曲演ったら負けやしない」という、48グループと乃木坂の欅坂に対するプライドがハッキリと現れて、各グループ同士バチバチのやり合いが凄まじかった。センターの生駒はクールな無表情で「制服のマネキン」時を彷彿とさせる圧巻のパフォーマンス。これで溜飲を下げたと言っていいのかはわからないが、意地を見せたのは間違いない。「サイレントマジョリティー」という圧倒的に優れた楽曲を中心として、48グループの現在地が垣間見える貴重なパフォーマンスとして僕の目には映った。これから彼女らにどのような曲が与えられるのか。笑顔の裏にあるドラマからも目が離せない。


Silent Majority - 46 and 48 the Dream Team

誰からも愛された「38」に向けて

 北海道日本ハムファイターズの背番号38、武田勝投手が本日、今季最終戦をもって現役引退しました。

 北海道移転後2年目の2005年ドラフトで入団した彼は、2006年の日本一をはじめ、移転後すべてのリーグ優勝を知る選手でした。中継ぎからキャリアをスタートし、先発になってからもその変則フォームから繰り出されるスライダー、チェンジアップを中心に打ち取る技巧派左腕。自身のコメントにもあるように、体も大きくなく(176cm・73kg)球速もない彼がプロで勝負するにはいかにボール球になる変化球に手を出させるかが重要でした。そしてそれは、全盛期でも130km/hそこそこのストレートを堂々とストライクゾーンに投げる勇気とコントロールがあってこそ成り立つものでした。そして130㎞/hの真っ直ぐに相手打者が詰まらされる場面を何度見たことか。その投球術は芸術と言っていいものだったと思います。
 少なくともこの10年、いや20年、彼以上にコントロールの良かった投手を僕は知りません。11年のキャリアを通算して出した四死球は226個。9回完投したとして何個の四死球を出すかを計算した与四死球率(奪三振率の四死球版ですね)は通算で1.64。ピークと言える2010年に限っては驚異の1.07。先発でマウンドに立てば、四死球を1個出すか出さないかということです。自然、彼の投げる試合はテンポが速くなる。全盛期の武田勝が7回、8回を投げる試合では21時前に試合終了することがザラでした。
 どんなピンチでも、点を取られてもポーカーフェイスで淡々と投げ続けた武田勝。その姿しか知らない他球団のファンには意外かもしれませんが、ヒーローインタビューでは飄々としたコメントで笑いを誘い、ローカル番組では被り物をし、全身タイツで海に飛び込むような男でした。「水曜どうでしょう」をこよなく愛し、その主題歌である「1/6の夢旅人2002」をずっと登場曲として使い続けた彼が北海道民から愛されたのは当然のことでした。引退セレモニーでも最後にヒーローインタビューを行い、オカリナを吹き出すなどドームを爆笑の渦に巻き込みました。

 その武田勝がユニフォームを脱ぎました。

 彼が積み上げた82勝は北海道移転後のファイターズにとってかけがえのない財産です。そして、彼のように体が大きくなく、球も速くない投手にとって勇気を与える存在だったでしょう。「真っ直ぐが遅くても勝てることを見せたかった。」と彼は言いました。その技術、投げる姿は今年共に2軍で戦った若手にもいい教科書であったことと思います。今後38番を誰が背負うことになるのかはわかりません。でも個人的には技巧派の左投手につけて欲しいと思います。

 武田勝投手、本当にお疲れ様でした。そしてありがとうございます。貴方の投げる姿を僕は絶対に忘れません。

ここから始まる。

サカナクション SAKANAQUARIUM 2015-2016 ”NF Records launch tour”
■2016/03/05@ニトリ文化ホール

 サカナクション、再始動。草刈愛美の出産による1年以上の休止期間を経てのツアーとなる。昨年秋から始まったツアーの終盤ということで乗り遅れた感もあるけど、こうして見ることができて良かった。会場はニトリ文化ホール。旧厚生年金会館。クラシック専門のkitara大ホールを除けば、札幌で最も大きなホール。アリーナクラスを含め、スタンディングでのライヴしか見たことがなかったので全部椅子席のホールでのライヴがどのようになるのか懸念もあったが、それは全くの杞憂だった。音響も映像もレーザー光線もきちんとアジャストし、サカナクションの空間を作り出していた。
 「ナイトフィッシングイズグッド」のリミックスをSEとして5人が登場し、おなじみのクラフトワークフォーメーションでDJ空間が立ち上がる。ホールでこれだけの音響が実現されるというのは驚きというくらいバキバキにカッコいい。序盤はBPM早めの曲で一気に会場を温める。「アルクアラウンド」「セントレイ」をここに持ってくるあたり、後半でそれ以上の盛り上がりを作る自信が見える。ツアーも後半、余裕すら感じる。「新宝島」など、今回初めて演奏される曲もあるが、特にそれをフィーチャーしているツアーではない。こういう、アルバムリリースと関係ない場合のライヴではセットリストに現時点でのバンドのモードやこれからの方向性が示唆されるものだ。それを感じたのは中盤、「壁」から始まったセクション。山口一郎が音楽家としての原点と向かい合うような内省的な曲である「壁」をほぼ照明が全くない暗闇の中で歌った。ここは鳥肌が立った。そこから「years」「ネプトゥーヌス」と、オイルアートの映像をバックに切々と歌い上げる。僕の頭に浮かんだのは原点回帰というか、もう一度自分の中にある音楽の核と向かい合うという意識。そこからまた新しい一歩を踏み出そうという、リスタートの意識があるのでは、と思った。「さよならはエモーション」からは再びレーザー光線が乱れ飛ぶダンスタイムが始まった。「夜の踊り子」では二人の踊り子さんも登場し華を添える。岩寺、草刈が太鼓を叩き、山口一郎がビームサーベルで指揮を振る「SAKANATRIBE」はまるで未来の民族儀式のような不思議な空間だった。そこから本編最後の「新宝島」まで一気に駆け抜ける、緩急も見事な構成だった。
 アンコール、「モノクロトーキョー」まで終わったところで長めのMC。魚釣りをした時にいい当たりがあると「ナイスフィッシュ」と声をかけるのが釣り人の礼儀だそうだ。だから皆もいいライヴを見た時は「ナイスライヴ!」と声をかけよう、と。一気に会場中から湧き出る「ナイスライヴ!」の掛け声。そして前日に行われた日本アカデミー賞で、『バクマン』の音楽を担当したサカナクションが最優秀賞を獲得したというニュースを報告。前日も札幌でライヴだったので、まだトロフィーを見ていないと。そんな話をしているところでトロフィーを持った大根仁監督が登場!アカデミー賞の授賞式を再現するというサプライズがあったのでした。
 そこから、メンバー紹介も交えながらまた一郎君のちょっと長いMC。ざっくり記憶を辿って書くと、オリコン1位になって紅白にも出て、自分たちが想像もしていないところまでサカナクションは一回行ってしまった。こっちの方向はもういいかなという気がしている。クラブイベントやレーベルを立ち上げたり、自分たちがどう音楽と関わるのか、どうリスナーとつながっていくのか、もう一回始めたいと思うからついてきてください、ということを言っていた。つまり、僕がライヴ中に思っていたことを山口一郎自身の口から言ってくれたようなMCだった。やはりこの人は信じられるな、と思った。
 そんな原点回帰の意識からか、メンバー紹介の中ではバンド結成時にそれぞれがどんなバイトをしていたかなど、昔話も。僕は知らなかったのだけど、草刈姉さんだけは当時、大学職員できちんとした職に就いていたのだそうだ。だけど、東京に出ていくことになり、その仕事を辞めて音楽一本にかけることになった。当時山口一郎はそれだけの決断をさせるからには売れなければいけない、音楽で食べていけるようにしないと申し訳ないという責任を背負っていたというのだ。そうして、初のシングル「セントレイ」から『シンシロ』へと続いていく。ライヴのラストはデビューアルバムからの「白波トップウォーター」。スタート地点を再度確かめて、また前に進むのだと言っているのだと思った。
 彼らもすでに10年選手。歴史は積み重なる。バンドには歴史があり、聞いているリスナーにも人生がある。それが絡み合うライヴはまさに一期一会。僕はサカナクションに出会えたことを幸せに思っているし、彼らが札幌のバンドであること(そして山口一郎が奥さんの幼稚園の同級生だったこと)を誇りに思っています。

■SET LIST
1.ナイトフィッシングイズグッド(Remix)
2.アルクアラウンド
3.セントレイ
4.表参道26時
5.AOI
6.スローモーション
7.壁
8.years
9.ネプトゥーヌス
10.さよならはエモーション
11.ネイティブダンサー
12.ホーリーダンス
13.夜の踊り子
14.SAKANATRIBE
15.アイデンティティ
16.ルーキー
17.新宝島
<アンコール>
18.グッドバイ(Remix)
19.ミュージック
20.モノクロトーキョー
21.白波トップウォーター

(写真は終演後の記念撮影時、「みんなも撮って!」という言葉を受けて撮影したものです)
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いい買い物。

 以前から部屋で音楽を聞くとき用にBluetoothスピーカーがほしいと思っていたのですが、今回いろいろと迷った挙句これを購入しました。

 BoseのSoundLink miniというスグレモノもあるのですが価格が2万円台後半とちょっと高いのと、いろいろなレビューを見ると音質的にはむしろFLIP3の方がいいのでは、という意見もあるので、1万円ちょっとで買えるFLIP3にしました。

https://www.instagram.com/p/BDVvB3PrF_e/
Bluetoothスピーカーが欲しくて、買ってしまったJBL FLIP3。

 セットアップは非常に簡単。iPhoneとのペアリングはあっという間に終わり、さっそく音楽を再生するとダイナミックな音が。いろいろなジャンルの音を試してみました。J-POP、ロック、テクノ、R&B、フュージョン、どれも特にクセはなく非常にクリアに聞こえます。低音も十分響きますが、中音域が豊かなのでロック系には特に合う印象です。サイズや重さはほぼ500mlのペットボトルと同じ。このサイズと価格でこの音質ならコスパ的には十分。まれに音がプチプチ途切れることがあるのが玉に傷でしょうか。
 これで家で音楽聞くのが楽しみになりました。Apple Musicのプレイリストをかけっぱなしにしながら読書したりネット見たりしています。