無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

拘りとマニアックとわかりやすさと。

山下達郎 「PERFORMANCE 2017」
■2017/07/01@神戸国際会館こくさいホール
■2017/08/15@ニトリ文化ホール

 前回の『PERFORMANCE2015-2016』ツアー終了からほぼ1年、今年も達郎氏のツアーが行われている。御年64歳。こうして衰えないパフォーマンスを見られるのはファンとして幸せだし、本当にうれしい。「ポケット・ミュージック」のコーラスSEをバックにメンバーが登場。前回ツアーと変わらぬ布陣。ステージセットは鉄道のガード下の風景をテーマにしていて、シカゴの町っぽい雰囲気。今回のツアーはアルバムやリイシュー盤のリリースタイミングでもなければ、前回のようにデビュー40周年的な冠もないツアーなので、特に制限もなくやりたい曲を自由にやるという。前々回の『マニアックツアー』とも違い、わかりやすい選曲で行こうと思ったのだそうだ。前回は秋から冬にかけてのツアーで、ツアー中4度も風邪をひいてしまったとのこと。もう冬のツアーはこりごり、今回は春から夏にかけてのツアーなので気分も盛り上がる。ということで夏がテーマの曲を多く選んだということだ。ワクワクする。

 『RIDE ON TIME』や『FOR YOU』がヒットしていた時期は「夏だ!海だ!タツローだ!」とどこかの雑誌でコピーがつけられ、夏の代名詞のように扱われた。でもその数年後に「クリスマス・イヴ」がヒットするとガラッと変わってしまった、と彼は笑う。2008年にツアー活動を再開してからはライブが思うようにできなかった90年代を含め20~30年間ステージやっていなかった曲も取り上げるように意識してきたという。現メンバーになって練習した曲は約80曲あり、達郎氏の全楽曲のほぼ3分の1にあたるという。しかしどうしてもライヴで再現できない曲もある。例えば楽曲のキー設定として音程が非常に高いもの。1曲なら歌えても、3時間のライブをやるにはどうしても負担が大きいので無理なのだそうだ(「ヘロン」など)。じゃあキーを下げればいいだろうという意見もあるが、そんなことをしたら「あいつももう衰えた」などと言われるのでやらない、と冗談めかして言う。あとはいわゆる「ウォール・オブ・サウンド」系の、音数が非常に多いもの(「ヘロン」「踊ろよ、フィッシュ」「サウスバウンドNo.9」など)。音数はテープの助けを借りれば演奏できないこともないが、達郎氏の拘りで極力やりたくないという。テープ流しっぱなしだったり、ドラマーがずっとイヤモニでドンカマを聴いてるようなライヴはしたくないのだそうだ。「今はどこもかしこもテープ出し、プロンプターだらけ。下手すりゃ口パクですよ」と達郎氏は嘆く。達郎氏のライブでテープの助けを借りるのは一人アカペラのバックコーラス、「クリスマス・イブ」間奏部の多重コーラスの他はほとんどない。「我々のライブは正真正銘、メンバーがリアルタイムで出している音です」と自信を持って達郎氏は言う。今回のツアーは初心者でも大丈夫なわかりやすいセットだと言ったが、こうしたライブでのこだわりを聞くと十分にマニアックだと思う。

 最近は他のアーティストに提供した曲のセルフカバーもやるようになった達郎氏。元々職業作曲家に憧れがあった達郎氏は、曲提供のオファーがあるとやはりその人の音域や雰囲気に合わせて作曲をするそうだ。なので、セルフカバーをやろうとするとどうしても自分のキャラクターに合わないものが出てしまう。若い頃はそれが嫌でやらなかったが、64歳になればもうどうでもいい、むしろ面白いんじゃないかと思うようになったという。というわけで1988年に鈴木雅之に書いた「Guilty」を演奏。当時鈴木氏に書いた曲では「おやすみロージー」は幾度となく演奏しているけれど、これは初めて。なかなか貴重な演奏になったのではないでしょうか。ライブでの再現が難しい曲にも、全く編成を変えてしまうと成立するものがあるという。通常のツアーではなくファンクラブ向けのイベントなどで狭いライブハウスで演奏するときにはいつものメンバーではできないので、いわゆるアンプラグド的な編成になる。ベース伊藤広規氏、キーボード難波弘之氏と達郎氏のトリオ編成で「ターナーの汽罐車」を。この曲もどうしてもバンドだと上手く行かないのが、この編成の方がしっくりくるという。近年のツアーでは恒例のカバー曲も披露。前回のツアーではちょうどクリント・イーストウッド監督作の『ジャージー・ボーイズ』が公開していたこともあってフランキー・ヴァリの「君の瞳に恋してる」を演奏した。これがあまりにもウケて評判になってしまい、ツアー後半はちょっと癪に障ったのだそうだ。「Guilty」に続きちょっとキャラが違うところから、トム・ジョーンズ「よくあることさ」を。確かにトム・ジョーンズと達郎氏ではキャラが違うけど、非常にソウルフルで個人的には合っていたと思いますよ。

 達郎氏はそもそもあまりメディアに出ない人だし、ましてや音楽以外の話をすることはまずない。今は政情不安、国際問題など、ミュージシャンが直接的にモノをいうケースも増えている時代だ。達郎氏ももちろんそれを否定するつもりはないが、音楽家は音楽で現実を語ればいいのだと言う。言いたいことは音楽に込めるのだと。そう言い切って「THE WAR SONG」を演奏した。まさに、音楽家としての山下達郎の矜持がそこにあった。31年前に書かれたこの曲が今でも有効なメッセージとして響いていることに、改めて氏の音楽の普遍性を感じずにはいられない。

 一人アカペラコーナーもやはり「わかりやすさ」をテーマに有名どころから2曲を選曲。そして暗闇の中、『シーズンズ・グリーティングス』20周年盤にボーナストラックとして収録された「Joy to the Wold(もろびとこぞりて)」が流れる。そのまま「クリスマス・イヴ」へ。夏がテーマと言ってもこの曲は外せない。オーストラリアで真夏のビーチにサンタクロースが現れるようなものかもしれない。今回のツアーではこの数年多く演奏されてきた「希望という名の光」ではなく「蒼氓」がセットに入った。「希望という名の光」は元々映画の主題歌として書き下ろされた曲だが、東日本大震災を経て全く別の文脈で聞きつがれ広がっていき、新しい意味を与えられた曲だ。いわゆる「曲が作り手を離れて独り歩きした」という現象である。「蒼氓」はアルバム『僕の中の少年』に収録された、達郎氏が35歳の時に発表された曲だ。山下達郎というアーティストがなぜ、誰に向けて音楽を作るのか。自らが曲を書き、歌う意味とは何なのか。ひいては、自分の人生における最終的なゴールとは何なのか。不惑を前にそうした根本的な人生への問いに向き合った、非常に重要な曲だ。「希望という名の光」の間奏部分では様々な曲がメドレー的に挿入されるが、必ずと言っていいほど最後は「蒼氓」が歌われる。

「ちっぽけな街に生まれ 人ごみの中を生きる 数知れぬ人々の 魂に届く様に」
「憧れや名誉はいらない 華やかな夢もほしくない 生き続けることの意味 それだけを待ち望んでいたい」(「蒼氓」より)

希望という名の光」は震災で傷ついた人々の心にささやかでも光を灯す曲として多くの人に愛されることになった。それはまさに、「数知れぬ人々の魂」に届いたということに他ならない。達郎氏はMCで言う。「音楽は世の中を変えたりすることはできない。でも聞いた人に寄り添い、心を癒したり、気分転換になったりすることくらいはできる。自分にとってはそれで十分なのです。」今回、「蒼氓」の間奏部分でも様々な曲が歌われた。「ピープル・ゲット・レディ」「風に吹かれて」「私たちの望むものは」そして、最後に歌われたのが「希望という名の光」だった。エモーショナルな意味においては、ここが僕にとってこの日のライブのクライマックスだった。今まで達郎氏の音楽を聴いてきた「数知れぬ人々」の一人である自分にとっても、一本の筋がきちっと通った瞬間だった。

 ライブはここから終盤へ向けてギアを上げていく。「LET'S DANCE BABY」ではやはり間奏部に「Summertime Blues」「Let's Kiss the Sun」「踊ろよ、フィッシュ」昨年リリースの「Cheer up the summer」など、夏がテーマの曲をちりばめて夏気分を盛り上げる。そのまま「高気圧ガール」の流れは気持ちよい。本編ラストは「CIRCUS TOWN」。ここまで約2時間45分。当然、アンコール入れれば3時間超えは確実の様相。達郎氏は今回のツアーで目標にしていたことがあるという。それは「3時間切り」。しかしここまで、一度も達成できていないという。観客としては、ぜひこのまま達成しないでツアーを終えてもらいたい(間違いなくそうなるでしょうが)。

 キャラじゃない曲をたくさんやったので、アンコールでもとことんキャラじゃない曲を。「しかし、正真正銘私の書いた曲です」ということで近藤真彦の「ハイティーン・ブギ」を。Kinki Kidsへの提供曲のセルフカバーはあるけれど、この曲の達郎バージョンは初めて聞いた。世代にもよるだろうけど、山下達郎作曲と知らない人も少なくないかもしれない。確かにキャラではないけれど、観客の平均年齢的にもこれは盛り上がった。「RIDE ON TIME」ではおなじみの間奏でのR&Rタイムと、ラストの生声パフォーマンス。「LET'S DANCE BABY」での客席クラッカーもそうだが、自然発生的に起こったお約束や毎回恒例のパフォーマンスに対して、達郎氏は肯定的だ。落語好きで知られる達郎氏は同じ噺を何度やっても笑いのとれる噺家のように、毎度毎度同じことをやっても客を盛り上げられてこそ、と思っているフシがある。客が飽きるかこっちが飽きるか勝負だくらいに思っているのかもしれない。アーティストによってはあえてヒット曲や代表曲をやらないということも普通にある中で、かたくなに「LET'S DANCE BABY」を37年間セットから外さないところにも、達郎氏のライブへの拘りが見て取れる。

 今回のツアーパンフには達郎氏のライブとレコードの違い、音の再現性等について、デビュー時から現在までたっぷりと語ったインタビュー記事が載っている。毎度のことではあるがかなり読み応えがあって面白い。MCでも語っているが、ライブでやれる曲やれない曲というのはどうしても出てくる。それでも毎度ツアーの時には数ある曲のうち何を削るかの作業になるという。毎度のように演奏される定番曲はあってもツアーごとにセットは異なるし、その曲を選んだ理由も彼の中にはしっかりと存在する。もちろん、ステージでやるとなればきっちりと演奏できるメンバーへの信頼もあってこそだ。現在のバンドメンバー、達郎氏を入れた6リズムセクション山下達郎、小笠原巧海、伊藤広規佐橋佳幸難波弘之、柴田俊文)は達郎氏のキャリアの中でも自信を持ってベストメンバーであると言い切る。古参のファンには異論もあるかもしれないが、達郎氏はそういう意見は気にしていないだろう。青山純氏が亡くなった時、自身のラジオでも達郎氏は言っていた。

現在ではですね、押しも押されぬトップドラマーであります青山純という人ですら、彼を私が起用した当初はですね、スタッフや聴衆から、なぜそんな無名のミュージシャンを使うのかと反対されたり・・・攻撃されたりもしました。
(中略)
芸事というのは、観る側にとっては自分の歴史の投影、自分史ですね、自分史の投影、自分史の対象化、そうした結果であります。歌舞伎とか伝統芸能、落語なんかの世界ですとですね、必ず先代は良かった、と。お前の芸なんて、先代に比べれば・・・という
そういう昔はよかったというですね・・・まさに自分史の反映としての芸事の評価というのが、昔からございます。ですが、古い世代というのは新しい世代に対する寛容さというのを常に持っていなければならないと、僕は常に考えております。

http://yamashitatatsuro.blog78.fc2.com/blog-date-201401.html

 山下達郎の音楽は普遍的だとよく言われる。しかしそれを実現するには同じことをしていては不可能だ。時代の変化、レコーディング技術の変化に伴い常に試行錯誤し、自分の望む音を追い求める。バンドメンバーにしてもしかり。拘るべき部分と柔軟に変化を受け入れる部分をしっかり見極めているからこそ、長年に渡って聴く者を魅了し続けるのだと思う。わかりやすさを目指したという今回のツアーで、むしろ山下達郎というアーティストのマニアックなまでの拘りが浮かび上がってきた気がした。

■SET LIST
1.SPARKLE
2.いつか
3.DONUT SONG
4.僕らの夏の夢
5.風の回廊
6.Guilty
7.FUTARI
8.潮騒
9.ターナーの汽罐車
10.It's Not Unusual
11.THE WAR SONG
12.So Much In Love
13.Stand By Me
14.Joy To The World~クリスマス・イヴ
15.蒼氓
16.ゲット・バック・イン・ラヴ
17.メリーゴーラウンド
18.LET'S DANCE BABY
19.高気圧ガール
20.CIRCUS TOWN
<アンコール>
21.ハイティーン・ブギ
22.RIDE ON TIME
23.DOWN TOWN
24.YOUR EYES

Don't Trust Under 40. ~30年を経てエレカシが辿り着いた境地

エレファントカシマシ 30th ANNIVERSARY TOUR 2017 "THE FIGHTING MAN"
■2017/05/20@わくわくホリデーホール(札幌市民ホール)

 エレカシのデビュー30周年イヤーを飾るアニバーサリーツアー。ベスト盤リリースの3月から始まり、47都道府県を回るというバンド史上最大の大規模なツアーだ。夏フェス期間を挟み、9月からツアー後半戦が始まる。アニバーサリーツアーだけに、セットリストはキャリア全般からなるべく偏らずに選曲することが求められるだろう。と同時に現在進行形のバンドであるからには過去の代表曲ばかりではなく今のバンドの姿をきちんと表現できるものにする必要もある。30年という長い期間を考えると選考は難しかったはずだ。(基本は3月発売のベスト盤中心とは言え)
 1曲目は2004年のアルバム『扉』から「歴史」だった。「歴史」は文豪・森鴎外の生涯を描くことで人間の生きる意味、人生の価値とは何で決まるのかという命題に向かい合う曲だ。30代に入ってからの宮本は多くの曲で同様のテーマを歌ってきた。エレカシ東芝EMIに在籍していたのはちょうど宮本が30代前半から40歳までである。宮本にとってエレカシというバンドは青春時代だけではなく、人生すべてを捧げてきたと言ってもいい存在だろう。そのバンドのアニバーサリーツアーでこれまでのキャリアを振り返るということは、取りも直さず自らの人生を振り返るのと同義であろう。人生や生と死を見つめ直し、言葉や音と格闘し続けていた時代を象徴する「歴史」で幕を開けたということが僕は大きな意味を持っていると思った。
 「今宵の月のように」について宮本はこんなことを言っていた。ローリングストーンズが好きで、エレカシは元々ああいうギターロックを志向していたけど、この曲ができて、アコギで感情をぶつけるみたいな曲で、ひとつ自分のスタイルを見つけた気がした。と。おそらくこの曲がヒットしていた当時の宮本ならこんなことは言わなかっただろう。アニバーサリーツアーであることもあってか、曲に対して宮本がエピソードや思いを語る場面が続く。「桜なんて嫌いなのにユニバーサルさんから言われて作った。」(桜の花、舞い上がる道を)とか「サントリーの焼酎のCM曲で、結構テレビで流れてたんだけど店で買おうとしたらお酒売ってなかった」(ハナウタ)とか。いつもの調子で的を得ない話を続ける宮本をメンバーも温かく見守る。そんなシーンも、今回のツアーの見どころかもしれない。
 最新アルバム『RAINBOW』から「3210」~「RAINBOW」、そしてデビューアルバム以前からのレパートリーであった「やさしさ」。この間に、代表曲であり重要な転換点でもあった「ガストロンジャー」が挟まるという、この流れは前半のクライマックスだった。そして本編ラストは「俺たちの明日」。人生の意味に向き合い続けた30代を経て、40代に突入した宮本がレーベル移籍して初めて出したシングル。その第一声が「さあ、がんばろうぜ」というシンプルさだったことは(割と暗黒な)東芝時代を聞いてきたファンにとってはちょっとした驚きだった。しかしこのシンプルさとヌケの良さはそれだけ宮本の悩みと葛藤が深かったことの証でもある。特に二番の歌詞「10代~」から始まる部分は、それだけ人生を生きた者でないと書けないものだったと思う。20代半ばくらいの時に宮本はこんな歌を歌ったことがある。

「歌を誰か知らないか?/つまらぬときに口ずさむ、やさしい歌を知らないか?」(「遁世」)

 30代から40代になり宮本はそんな「やさしい歌」を書けるようになった。それは、長年エレカシを聞き続けているファンはよく知っていることだと思う。かつて、「30歳を過ぎた人間を信用するな」という言葉がロックンロールの常套句だった時代があるけれど、今のエレカシを見ていると「40歳に満たない人間を信用するな」と言いたくなる。長く経験を積むことでしか表現できない境地というものは、確かにあるのだ。
 本編が終わって最初のアンコール前に宮本が「第一部終わりです。またすぐ出て来ます。」って言ったせいか、メンバーはけてステージが暗転してもしばらくアンコールの拍手が鳴り始めなかったのはものすごくエレカシっぽい場面だった。アンコール、と言ってもここから1時間近くやっていたと思う。個人的にグッと来たのは「生命賛歌」。超絶ギターリフ製造マシーンとしての石君とエレカシのバンドアンサンブルが一番ビビッドに感じられた気がする。後半はほとんど後期ツェッペリンみたいな音がしていた。このアンコールでも最新作からデビュー時まで、幅広いながらもきちんと現在進行形のバンドの姿を見せてくれていたのが頼もしい。アンコールラストはベスト盤、そしてツアータイトルにもなっている「ファイティングマン」。ベスト盤の感想にも書いたけど、ここからすべてが始まり、最後にはここに行きつくということなんだと思う。そして30年経っても尚、デビューアルバムの曲を「今の曲」としてカッコよく鳴らせるバンドが果たしてどれだけいるのかと。エレカシの「ファイティングマン」と佐野元春「アンジェリーナ」を聞くときはいつもそんなことを思う。
 ダブルアンコールラストの「花男」まで全30曲(30周年記念ツアーだけに)、約3時間。凄まじいボリュームのライブだし、これで47都道府県回るというのはバンドとしてもすごくチャレンジングなことだと思う。宮本は30歳で「悲しみの果て」を書いた。40歳の時に「俺たちの明日」を書いた。そして、昨年50歳になった宮本が書いたのは「夢を追う旅人」だ。まだまだ枯れていない。これからどんな歌を歌っていくのか、楽しみで仕方がない。

■SET LIST
1.歴史
2.今はここが真ん中さ!
3.新しい季節へキミと
4.ハロー人生!!
5.デーデ
6.悲しみの果て
7.今宵の月のように
8.戦う男
9.風に吹かれて
10.翳りゆく部屋
11.桜の花、舞い上がる道を
12.笑顔の未来へ
13.ハナウタ~遠い昔からの物語~
14.3210
15.RAINBOW
16.ガストロンジャー
17.やさしさ
18.四月の風
19.俺たちの明日
<アンコール1>
20.ズレてる方がいい
21.奴隷天国
22.いつか見た夢を
23.good morning
24.コールアンドレスポンス
25.生命賛歌
26.TEKUMAKUMAYAKON
27.夢を追う旅人
28.ファイティングマン
<アンコール2>
29.友達がいるのさ
30.花男

20周年、実りの季節。

BILLBOARD BEST 2011-2016

BILLBOARD BEST 2011-2016

 ノーナ・リーヴスが2011年から2016年まで在籍したBillboardレーベル時代の曲を集めたベスト盤。この間彼らがリリースしたアルバムはオリジナルアルバム3枚、そして洋楽カバーシリーズの『CHOICE』I~IIIの計6作。非常に精力的にレコーディングを行っていたことがわかる。本家ノーナとしての活動の他、西寺郷太は楽曲提供からプロデュース、執筆活動にメディア出演とマルチな活躍を続けてきた。奥田健介はレキシ、小松シゲル佐野元春&THE COYOTE BANDを中心に他のアーティストのライブやレコーディングに参加するなど、3人共に働きすぎじゃないかと思うほどの活躍だった。
 ファンは当然そうした活動の数々に目を向けてきているわけだけど、この間ノーナのアルバムはどれも素晴らしいものだったにもかかわらず、今イチ世間のリアクションが物足りない気がする。『POP STATION』も『FOREVER FOREVER』も『BLACKBERRY JAM』もノーナの魅力が詰まった良作だし、『CHOICE』シリーズでの選曲の妙とオリジナルへの愛は80年代洋楽で育った世代はもちろん、それ以外の人にもアピールするものだったと思う。(一時期は『CHOICE III』でのワム!三昧を聞きながら「噂のメロディ・メイカー」を読むのが楽しみでした)もちろん、ノーナへの注目は上がってきていると思うし、ライブの動員も順調だし、バンドとしてはいい状態なのだと思う。しかし、それでも彼らの持つ音楽性に対してまだ世間の評価は追いついていないと思う。むしろ同業者からの評価が非常に高い。正直ミュージシャンズ・ミュージシャンの域を出ていないような気がする。ファンとしてはそれをもどかしいと思いつつ、宝物のような彼らの音楽を愛でることに喜びを感じるのですが。20年間、彼らは洋楽をベースとしたJ-POPのお手本として全くぶれない作品を積み重ねてきた。このベストにも収録された『BLACKBERRY JAM』収録の「HARMONY」の歌詞に彼らの本音とプライドが現れているような気がする。「ひと昔前まで俺たちは ミスター・マニアックと呼ばれたけど 今じゃそれぞれのスキルだけを 武器にして平和な音楽を繋いでる」。彼らと同世代の自分にとってはノーナのような、80年代を下敷きにした音楽が広く認められて欲しいと切に願うし、ここ最近のシティポップ感あふれるバンドやアーティストの盛り上がりを見ているとそんな時代が近づいて来ているのかもしれないとワクワクする。そこにばっちりとノーナ・リーヴスがハマるはずと思う。なんたってこっちは20年前からやっているんだから、年季が違う。
 先に出た2010年までのベスト盤『POP’N SOUL 20~The Very Best of NONA REEVES』と合わせて聞くと彼らの歩みがよくわかる。そしてこの秋には再びワーナーミュージックに復帰し、新作アルバムがリリースになるという。ノーナの季節はもうすぐそこまで来ている。


ノーナ・リーヴス(NONA REEVES) 「O-V-E-R-H-E-A-T」(オーバーヒート)MV

もう10年、まだ10年。

サカナクション 「SAKANAQUARIUM 2017 10th ANNIVERSARY 『2007.05.09』 TOUR」
■2017/06/23@ニトリ文化ホール

 サカナクションが1stアルバム『GO TO THE FUTURE』をリリースしたのが2007年5月9日。それから10周年ということでのアニヴァーサリーツアー。僕がサカナクションというバンドを認識したのは2ndアルバム『NIGHT FISHING』が出た2008年最初の頃。そこからの彼らの歩みは早かった。3rd『シンシロ』やシングル「アルクアラウンド」がチャートの上位に入り、2010年10月には初の武道館公演。ライヴの規模やリリースの話題性などもどんどん大きくなり、音楽性とセールス、ライブ動員でもシーンの最先端を行くトップバンドとしての地位を確立していった。ライブ演出なども「そこまでやる?」という驚きを常に与えてくれていたし、会場の規模が大きくなってもライブにおけるサウンドのクオリティはいつも素晴らしいものだった。
 そんな風に振り返りモードで開演を待っていた。ホール会場ながら、ステージだけでなく客席の横のエリアまで光るポールのようなセットが張り出している。心臓の音のようなビートに合わせ、赤と青の光が客席までぐるりと移動する。「新宝島」から始まったライブは初期の曲までキャリア全般から万遍なく選ばれていた。初期の曲、特に『GO TO THE FUTURE』の曲などは打ち込みが少なく、バンドの生のアンサンブルが堪能できるのがうれしい。表題曲はちょっとジャジーなアレンジが加わってオシャレになっていた。中盤、「シーラカンス」「流線」ではおなじみのオイルアートをスクリーンに映し出すのだけど、そのやり方も洗練されていた。ステージ後方ではなく前方に位置した半透明スクリーンを使っていた。レーザーで円形の窓を作り、その中にオイルアートを映し出す。後方から照明を当て、窓の中には山口一郎のシルエットが映し出される。リアルタイムでアートビデオを作成しているようなスリリングさと美しさ。特に「流線」ではサイケデリックな空間が表出していたと思う。
 「バッハ~」から「三日月サンセット」の流れは実に見事で、スマートなDJプレイのようだった。「三日月」のアレンジも今のサカナクションに合わせてブラッシュアップされていた。本編は曲間が途切れず、ほぼ全編シームレスに繋がっていく展開だったのだけど、この「バッハ」から「三日月」、そしてクラフトワークフォーメーションでの「SORATO」「ミュージック」へと繋がる流れは素晴らしかった。縦横無尽に飛び交うレーザーも相まってテンションも上がる。まさにクライマックスだった。「まだまだ踊れる?」の声とともに「夜の踊り子」「アイデンティティ」とさらにヒートアップ。長年ファンに愛され続ける名曲「ナイトフィシングイズグッド」で本編ラストとなった。

 アンコールは今回のツアーでの目玉企画である「アンコールくじ引き」で2曲を決める。ライブ後に感想などをエゴサーチしているとセットリストに関して「「ルーキー」「アイデン」飽きた」とか書かれてて凹むらしい。だったらくじ引きにすれば文句出ないだろう、ということのようだ。僕が初めてサカナクションを見たペニーレーンでの「NIGHT FISHING」ツアーファイナル、アルバム2枚分の曲を全て演奏してしまい、2回目のアンコールでやる曲がなくなってしまったことがあった。その時はメンバー1曲ずつ候補を出してお客さんに選んでもらい、拍手が一番大きいのを演奏した。(その時は「ナイトフィッシングイズグッド」だった。)そんな微笑ましい場面を思い出したりした。候補曲をすべては覚えていないのだけど、最近はあまり演奏されない曲も多く、どれをやったとしても面白そうだった。曲を紹介するときに一郎君が一言コメントをつけていて、それがなかなか面白く。「父親の工房で引きこもって書いた曲」(「アムスフィッシュ」「フクロウ」)とか「つらい思い出しかない」(「エンドレス」)とか。「ワード」の時に、「YUKIさんに書いてコンペに出したんだけど落ちて。その時に決まったのが「JOY」。そりゃ負けるよね。」みたいなことを言ってて、僕は初めて聞いたエピソードだったので驚いた。厳正なるクジ引きの結果、選ばれたのは「アムスフィッシュ」「ワード」、奇しくも『NIGHT FISHING』から2曲。「アルクアラウンド」を挟み、新曲を演奏。非常にポップでダンサブルで、シングルっぽいなという感じの曲だった。一郎君によれば今は踊りたいハッピーな気分の曲を作りたいのだそう。それだけではサカナクションらしくない(笑)と思うけど、年内には絶対という次のアルバムにはそうした気分も反映されるんだろう。楽しみに待ちたい。

 山口一郎はサカナクションが注目され始めた割と初期から、「(自分が好きで聞いている)アンダーグラウンドな音楽とメインストリームとをつなぐ架け橋になりたい」と言っていた。チームサカナクションが大きくなった今でも、というか大きくなったからこそできることも増えているだろうし、ある意味それを利用している部分もあると思う。僕は前作『sakanaction』のアルバム発売イベントで一郎君に「今のサカナクションのライブは規模も演出も当初からは考えられないほどスケールアップしているけど、最初から今のようなことをやりたいと意識していたのか?」という質問をした。答えは否で、最初は何ができるか、自分たちが何をしたいかもわかっていなかったという。しかし次第に技術も知識もついてくるにつれ、やりたいことやアイディアが次々と出てきて、それを実現できるよう協力してくれるスタッフも増えてきて今に至るのだ、ということを丁寧に説明してくれた。ペニーレーンでのライブを見ている人間からすると10年経った今のサカナクションはとてつもなく遠くに行ってしまった感があるけれど、その道のりはけっして平坦ではなく、一歩ずつ試行錯誤しながら歩んできたのだろう。この日のライブも、音楽・映像・演出、全てにおいて今まで培ったスキルを惜しみなく発揮していたと思う。いつでも誠実にファンの方を向いて音楽を作ってきたバンドだと思うし、そこはこれからも信頼していきたい。

 どんなに大きなバンドになっても、北海道、札幌でのライブでは常に「おかえり」の声がかかる。そうやって、これからも地元のファンとして温かく応援したい。10周年、おめでとうございます。

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(以下ネタバレセットリスト)

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岩瀬の偉大な記録について

 2017年のプロ野球交流戦が終わり、もうすぐ折り返し地点というところである。順位やけが人やチームの状態は12球団各々悲喜こもごもだと思うが、それは置いといてもうすぐ達成されそうな一つの大きな記録について考えてみたい。
 投手の通算登板試合数。現在のプロ野球記録は米田哲也氏の949試合。中日ドラゴンズ岩瀬仁紀投手は交流戦終了までで通算933試合。今季岩瀬投手はここまで29試合に登板しており、けがなどで長期離脱がない限り今季中に新記録達成の可能性が高い。
 プロ野球における通算記録やシーズン最多記録、特に投手部門の記録に関してはセーブやホールドなど後年になって正式に公式記録となったもの以外は1970年代以前の記録がほとんどである。例えば金田正一氏の通算400勝、4490奪三振稲尾和久氏・スタルヒン氏のシーズン42勝、江夏豊氏のシーズン401奪三振などだ。こうした大記録はチームのエースが先発もリリーフも兼任してフル回転していた時代のものだ。先発完投した次の試合でも連投も当たり前、やる側も使う側もそういうものだという時代だったとはいえ、今では考えられないようなブラック企業もびっくりの酷使があった時代に積み重ねられた記録たち。現在のように投手の分業制が確立し、先発の中6日ローテーションが定着した中ではもはや手が届くどころか指すらかからない記録だろう。そんな中、岩瀬が歴代記録1位に名前が上がることの偉業はもっと称えられていいはずだと思う。
 岩瀬は1999年のプロ入り以来、リリーフ専門として活躍してきた。2年目の2000年に1試合先発登板があるのみだ(ちなみにこのときは7回1失点で勝ち投手になっている)。15年連続50試合以上登板、通算402セーブなど数々の日本記録を持っているが、そこに通算登板試合数歴代1位の称号が加わろうとしている。けがから復帰後は以前のようなクローザーではなく左の中継ぎとしての役割だが、貴重な左のリリーフとして今でもベンチの信頼は厚い。来季も現役続行なら1000試合登板も視野に入ってくるだろう。
 偉大な記録や実績の割には地味な印象のある岩瀬ではあるが、プロ野球史に残る鉄腕リリーバーである。新記録達成の際には盛大に祝福したい。してあげてほしい。


個人年度別成績 【岩瀬仁紀 (中日ドラゴンズ)】 | NPB.jp 日本野球機構


歴代最高記録 登板 【通算記録】 | NPB.jp 日本野球機構