2018年・私的ベスト10~音楽編(1)~
明けてしまいましておめでとうございます。
本当にもう年々、新しい音楽をじっくり腰を据えて聞くことが少なくなってきました。正直目新しい驚きや意外性に乏しいラインナップになっていると思います。
今年は順位はつけていません。邦楽から5枚、洋楽から5枚で計10枚選んでいます。まずは邦楽編から。
エレファントカシマシ『WAKE UP』
前作『RAINBOW』以来2年半ぶりの23枚目(!)のオリジナルアルバム。昨年の30周年記念ベスト盤と全国ツアーという大きな節目を終え、文字通り新たなスタートという意味合いのアルバムとなります。
ただ、口で言うのは簡単でもこの「新たなスタート」というのはなかなか厄介だと思うのです。特に、言いたくはないですが歳を取ると新しいものや環境と適応するのが億劫になってくる。
本作は宮本浩次をはじめメンバー全員が50歳を超えての最初のアルバムになります。「Easy Go」という、エレカシ史上最速のパンク・ナンバーをはじめ、本作には本気でここからリスタートするのだという気合がみなぎっています。
どの曲も、それこそ曲調としては「Easy Go」の対極にあるような「風と共に」ですら、とにかく「前へ進む」ことしか歌っていない。この力はどこから出てくるのだろう。こういう人たちが人生の先輩として前を歩いていてくれることに感謝したい。そんなアルバム。
tofubeats『RUN』
tofubeatsは早くから注目されていたし、メジャーデビューしてからだってすでに5年以上が経っているし、新世代の旗手云々的な文脈で語ることはもうできなくなっていると思います。もうすでに中堅からベテランの域に入っていると思うんですね。
ポップスとしてもクラブミュージックとしても彼がやろうとしていることがすでに王道ど真ん中という時代なんだなあと改めて感じるようなアルバムでした。
最近のタイアップにしても、目新しさではなくて彼の音や言葉が必要だから選ばれているという気がします。
前作『FANTASY CLUB』以降ゲストフューチャリングはめっきり減り、シンガーソングライター的なアプローチが増えてきました。本作もその流れに沿っています。個人的にはその方向も、彼のアーティストとしての覚悟のようなものの表出だと思っています。
宇多田ヒカル『初恋』
活動再開してからの宇多田ヒカルは憑き物が落ちたという感じで、いろんな意味で迷いが無いと感じます。母親に捧げたような前作『Fantome』に比べるとテーマ的にはそこまで重くはないし、むしろ開放感のようなものすら感じます。
それでも今作も生や死ということが歌われています。そういうテーマにしようというよりも、今の彼女が普通に曲を作るとそういうものがにじみ出てくるのでしょう。
全体のサウンド的にはあまり時流というものを意識していないように思いますが、今作でも新しい才能をフックアップしていて、彼女自身がハブのような存在として新しい音楽や才能を発信する装置となっているかのようです。
デビューから20年を経て、デビュー作『First Love』に対しての『初恋』。イヤでも対比したくなるタイトルですが、ひと回りしたということよりも、彼女がこの20年間でどれだけ人間として、アーティストとして成長したのかということが重要なのだと思います。今の宇多田ヒカルの音楽にはそういう奥深さが備わっています。
Perfume『Future Pop』
[Official Music Video] Perfume 「Future Pop」
完全にフューチャーベースに移行してきていた最近のPerfumeですが、その方向性についての決定盤と言えるアルバムになっていると思います。
今のPerfumeをアイドルとして見る向きは既に少数派でしょう。少なくともJ-POPの範疇の中で他のアイドルと比較することはできなくなっていると思います。
ライブパフォーマンスにしてもサウンドにしても、完全に世界規模で普通に認められるところまで来ています。その中であくまでも東京発であるところを意識して活動しているのは2020年に向けてのメッセージも含まれているのかもしれません。
Perfumeは誰も見たことのない場所に行こうとしているのは間違いありません。三十路を迎えた彼女らがどんな場所でどんな景色を見せてくれるのか、こちらは身を任せるしかないのです。
星野源『POP VIRUS』
年末に飛び込んできた究極のポップ・アルバム。星野源が現在の星野源たるスケールとやりたいこととスキルの全てを結集したアルバムと言っていいのではないでしょうか。
正直、1年前までは次のアルバムは『YELLOW DANCER』を超えないだろうと思っていました。それが変わったのは「アイデア」のフルコーラスを聞いてからです。
星野源は自分が聞いてきた音楽、自らのルーツや趣味志向に対して非常に自覚的なアーティストです。そのルーツを隠さず、時には明確なオマージュも行いながら、換骨奪胎してコンテンポラリーな音楽に仕上げています。『YELLOW DANCER』ももちろんそういうアルバムでしたが、本作にはさらに未来のポップス観のようなものが示されている気がします。
そしてこのアルバムにはとにかく音楽を聴くことの意味、とりわけアルバムとして1枚通して聴くことの意味が詰まっていると思います。既発曲も、どれもが単発で聞いた時と違う感覚で聴こえてくる。音楽を愛し、愛された男がリスナーに対して音楽を愛してください、と訴えかけるアルバム。それだけでもうちょっと泣けてくるんですよね。
ただひとつ今の星野源に文句があるとすれば、彼は自分が曲や音に込めた意図を説明しすぎの感があります。ラジオでもどこでもそうですが、例えば彼が本来意図したのではない受け止め方をしたリスナーがいたとしたら「そうじゃないんだよね、」と説明をしてしまう。
僕個人は誤解されることも含めてポップミュージックだと思うので、あまりそういうことはしてほしくない。そして、説明することに慣れてほしくもない。じゃないと、自分で説明できないことを音楽にできなくなってしまうと思うのです。
まあ、そんなことは星野源はわかりきっていることだとは思いますが。
2018年・私的ベスト10~映画編(2)~
5位『ヘレディタリー/継承』
家長であるエレンの死をきっかけに、グラハム家に起こる奇妙な出来事とその顛末を描くホラー映画。
確かに血しぶきやグロい場面も多いですが、この作品にはゾンビや猟奇殺人といった一般的なホラー映画ではありません。もっと、背中の奥から気持ち悪さやヤバみがこみあげてくるような映画です。
『万引き家族』のように、世間一般的な家族の枠からはみ出てしまった人たちの運命も悲惨ですが、端から見て普通の家族に見える関係の中で家族関係が崩壊していくこともまた地獄でしょう。そしてそこから逃れられない、と気づいた時の絶望たるや。
この映画の怖さには宗教というものが大きく関係しています。『エクソシスト』や『ローズマリーの赤ちゃん』といった過去のホラー傑作と比較されるのもそのためでしょう。
いわゆる超常現象的な描写もたくさんありますが、この映画のキモはそれよりも日常や今までの人間関係や、何より家族という血のつながりの中に恐るべき闇が潜んでいることへの恐怖なのだと思います。
一歩間違えば自分の身にも起こっていたかもしれない、という怖さ。この辺の距離感でこの映画の怖さはかなり個人差が出てくるように思います。
しかし本作の恐怖描写は本当にすごいです。視覚のみならず、聴覚、音で「いる」ことを示す演出などその最たるもの。緊張と緩和でなく、どんどん緊張と恐怖が積み重なっていくアリ・アスター監督の演出はとても初監督作と思えない手腕です。
4位『シェイプ・オブ・ウォーター』
本作はギレルモ・デル・トロ監督が子供の頃『大アマゾンの半漁人』という映画を見た経験が元になっているそうです。デル・トロ監督は映画の中で半漁人とヒロインがハッピーエンドを迎える話を夢想し、イラストやストーリーを描いていたと言います。
本作では発語障害のヒロインの他、主人公側の人間は黒人女性やゲイの老人など、マイノリティ、社会的弱者ばかりです。ヒロインも決して美女ではない。移民出身であるデル・トロ自身も含め、虐げられてきた人々に対する監督の想いが反映されていると思います。
「強いアメリカ」の象徴でもあるようなマイケル・シャノン演じるストリックランドをはじめ、キャラクターはある種形骸化されたような、分かりやすい描かれ方をしています。それはおとぎ話だから問題ないのでしょう。正直ソ連とアメリカの冷戦を中心とした1960年代の時代背景など、おとぎ話というには生々しい部分が目立つ気もしますが、セットや色調の美しさがそれを凌駕していたという感じです。
モンスター映画、怪獣映画という枠ではなく、監督はあくまでも王道のラブストーリー、おとぎ話として徹底してブレずに作られているところが良かったですね。異形なるものと人間の恋愛おとぎ話という意味で『シザーハンズ』を少し思い出しました。とにかく青と緑の色が美しくて、字幕も薄緑色だったのがニクイです。
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3位『ボヘミアン・ラプソディ』
クイーンの、というかフレディ・マーキュリーの伝記映画。結成から成功を経て、空中分解しそうになったバンドが再び一つになり、1985年のライブエイドでのステージをクライマックスとしています。
フレディと元恋人であり生涯の友人であったメアリー・オースティンとの関係を含め、ファンであればほぼ知っているだろうエピソードがほとんどで、非常にテンポよく物語が進みます。そしてそれを彩るのは当然、クイーンのヒット曲、名曲の数々。クライマックスのライブエイドの映像は個人的にはリアルタイムで見ていたし、その後も映像で見たもの。その前後のシーンと合わせ、最後の方は涙と鳥肌が止まりませんでした。
フレディ役のラミ・マレックは見た目はもちろん、喋り方からステージパフォーマンスまで完全にフレディでした。完全に何かが憑依しているのではと思うほどの凄まじさです。その他のメンバーもそっくりで、ライブエイドの映像は元のものをそのまま使っているのでは?と思うほどのクオリティでした。バンドの栄枯盛衰を描いた映画は数あれど、その中でも屈指の名作として語り継がれるのではないでしょうか。この後に、1986年伝説のウェンブリー・スタジアムでのライブDVDを見たくなりますね。
家族にも社会にも居場所のない、つまり「ボヘミアン」だった若者(フレディ)がバンドや友人という「家族」に支えられながら生きていく物語になっていたと思います。最後に本当に家族の元に帰り、認められるという展開も涙なしには見られません。
事実と違う点があるという指摘はごもっともなのですが、クイーンというバンドの持つドラマ、フレディ・マーキュリーという人の伝説性を強調する意味でこの改変というか「脚色」はアリだと思います。何でもかんでも真実を伝える事が全てではないでしょう。リアルよりリアリティ。
2位『カメラを止めるな!』
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今年の邦画では最も注目を集めた作品ということになるのではないでしょうか。興行収入では『名探偵コナン』とか、他にも大ヒット作品がありますが、ここまで社会現象ともいえる状況を作った作品は他にないと思います。そして実際、それに値するだけの面白さを持った映画でした。
今更とは思いますが、やはりネタバレは控えます。というと物語についての感想は何も言えなくなってしまうんですが、「この映画は二度始まる」という宣伝コピーに嘘はないということは言っておきます。序盤の30分間、頭の中に「?」や違和感や「アチャー」という感想が出てきても、無視することです。それらを全て回収する見事な展開と、爽快感。そして感動とちょっと泣けるラスト。見事だと思います。
演劇のワークショップから展開した作品ということで、脚本も役者さんにアテ書きで書かれているそうです。ほぼ無名の役者さんばかりですが、ハマってるなと思うのはそういうところなのでしょう。低予算の映画が口コミでこれだけの社会現象を巻き起こすという、邦画ではなかなか見られないシンデレラストーリー。監督にとっては次の作品のハードルが限りなく高くなったでしょうが、今後も楽しいに注目したいです。
1位『バーフバリ 王の凱旋』
厳密に言うと昨年公開になった映画なのですが、2017年12月29日だし、ほぼ今年ということで入れさせていただきます。そしてこれも本来ならアウトでしょうが、前作『バーフバリ 伝説誕生』との合わせ技1位ということでお願いします。
古代インドの架空の王国を舞台に、親子2代にわたる王家の物語を壮大なスケールで描いた娯楽超大作。インド映画には疎い自分も、さすがに『ムトゥ 踊るマハラジャ』でイメージが止まっているわけではない。にしても、ここまで王道のエンターテインメントを真正面から直球で作れるとは驚きでした。とにかくスケールがでかい。そして絵が美しい。
物語は本当に王道で、ありきたりと言ってもいいくらいのシンプルなストーリーです。最終的にどういう結末になるかはわかっているのに、胸が熱くなる。簡単に言うと見ていて燃える、熱い展開なのです。
スローモーションや決め絵を多用した大仰な画面構成は明らかにザック・スナイダー以降のハリウッド映画の影響を感じさせます。でも今のDCユニバース映画のように画面が暗くなく、鮮やかで明るい絵なので見ていて気持ちいいのです。物語の展開と相まって、「ここで来る!」「はいキた、バーン!」の連続。一つ一つのエピソードや展開はどこまで見たようなものばかりでも、全く新鮮な映画体験を楽しむことができました。
回想シーンでの画面と、その後の現在の画面がうまく呼応するような構成になっているとか、実は緻密に計算されて作られているのだと思います。長いけど飽きませんし、難しく考えることのない映画なので未見の方は年末年始にいかがでしょう。
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というわけで、少ない中から10本選びました。『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』ももちろん素晴らしかったのですけど、『インフィニティ・ウォー』は来年公開の続編とニコイチという考えがあるので、選びませんでした。『ブラックパンサー』も『ミッション・インポッシブル:フォールアウト』も面白かったなあ。今からでもジュマンジと入れ替えようかなあ!という感じです。来年はもう少し映画館に行けるといいなあ、と思っております。
2018年・私的ベスト10~映画編(1)~
今年は映画館で見た作品が少なくて。見たかったやつを見逃して後からブルーレイで見直すパターンも多かったです。なので非常に狭い範囲でのベスト10です。
10位『ジュマンジ ウェルカム・トゥ・ジャングル』
1995年の映画『ジュマンジ』の続編。ということになっているのだけど、前作を見ていなくても大丈夫です。
ロック様ことドウェイン・ジョンソン主演のアクション映画ということで誰でも楽しめるお気楽エンターテインメントでしょ?と若干バカ映画扱いされているかもしれません。しかし見てみたら意外に拾いものでした。
問題を起こした生徒4人が学校で居残りを命じられる、という冒頭から明らかに『ブレックファスト・クラブ』を引用した展開になっています。ジョン・ヒューズ監督による、1985年の青春映画の歴史を変えた傑作です。
その4人は童貞ガリ勉オタク、スポーツマン、かわいこちゃん、オタク女子。ゲームの世界に引きずりこまれた4人は現実とはかけ離れたキャラクターになり、それぞれのスキルを駆使してゲームをクリアし現実世界に戻ろうとするわけです。
その中でそれまで別の世界にいた者同士がお互いに理解を深め、親密になっていくという展開はまさに『ブレックファスト・クラブ』そのもの。青春映画の金字塔と言えるこの名作を下敷きにしている時点で、単なる娯楽アクションとは違った趣になっています。
SNS依存症のかわいこちゃんがジャック・ブラックになるという時点でコメディ要素たっぷり。あとは『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』ではガチガチメイクでネビュラを演じていたカレン・ギランが素顔で出てますが、めちゃくちゃキュートで最高ですね。
『ブレックファスト・クラブ』と違って現実に戻った彼らが普通に仲良く学校生活を送るあたりはちょっと物足りなさを覚えるところですが、そこはまあ良しとしましょう。
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9位『アイ・トーニャ 史上最大のスキャンダル』
1994年のリレハンメル五輪の選考会となる全米フィギュアスケート選手権直前に起こった「ナンシー・ケリガン襲撃事件」。当時日本でもワイドショーを賑わせたこの事件を中心に、トーニャ・ハーディングの半生を綴っていく映画。
実際の事件を元にしているし、俳優たちは実名の役で、カメラに向かってインタビューに答えるように演技する。いわゆるフェイク・ドキュメンタリーの手法を取っているのだけど、その実、何が真実なのかはこの映画を見てもわかるわけではありません。
当事者たちの証言が食い違っていて、それをそのまま映像化しているので見ていても何が本当なのかわからなくなってくる。
しかしこの映画の目的は真実を明らかにすることではなく、なぜこんな事件が起きたのかをトーニャという人の人生を振り返ることで推測することであり、そしてよくわからない事件をよくわからないものとしてそのまま映像化することなんだと思います。
テンポよく話が進むし、登場人物が観客に向かって語りかける、いわゆる「第四の壁を破る」手法がとられている。そして70年代~80年代のロックナンバーがガンガンかかる中、実際に起きた事件を描いていく。
これはまさにフィギュアスケート版『ウルフ・オブ・ウォール・ストリート』でしょう。出てくるキャラクター全員頭がおかしくてバカなところも似ています。エンドクレジットで、実際のインタビューやニュースの映像が出てくるのだけど、 どのキャラクターも似すぎてて笑えます。
唯一脚色というか、想像で描いたのは母親でしょうか。実際この部分が一番ドラマ的であり、強烈なキャラクターを見事に演じたアリソン・ジャネイはアカデミー受賞も当然のインパクトです。
全体に悲壮な感じにならず、あくまでもカラッと仕上げたところが高感度高かったです。
あと、トーニャの幼少期を演じたマッケナ・グレイスちゃん。『ギフテッド』でも最高の演技を見せてましたが、ここでもちょっと大人になった彼女が素晴らしい演技を見せてます。この人、あと数年経ったらハリウッドでも最高の若手女優になるでしょうね。
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8位『スリー・ビルボード』
ミズーリ州の寂れた道路に掲示された巨大な3枚の広告看板。設置したのは、7カ月前に何者かに娘をレイプされ殺された母親。犯人は一向に捕まらず、何の進展もない捜査状況に腹を立て、警察署長ウィロビーを名指しで批判する広告を出したのです。
最初はとんでもない話だ、とミルドレッドを応援する気持ちで見始めるのだけど、どうも様子が違うのですね。ウィロビー警察署長は人望も厚く、仕事熱心で家庭では良き父親である。名指しで職務怠慢を批判されるような人物ではありません。
そしてミルドレッドは娘を殺されたのは事実でも、決してほめられた人間ではないことが見えてきます。簡単に言えば自己中心的なトラブルメイカー。
もう一人重要な登場人物が署長を敬愛する警察官ディクソン。マザコンで人種差別主義者で、弱いものに対し権力を振りかざす彼は第一印象で最も忌むべき人物です。しかし、映画を観終わった時には観客が最も感情移入するキャラクターになっているでしょう。一言で言えば「おいしい」役。
看板と同じように、人間にも裏と表がある。一面だけ見てその人間を理解できるはずはない。この映画のテーマがそうであるとするならば、そのテーマを最も体現しているのがディクソンだと思います。
ただ、本作のテーマはそれだけではないでしょう。映画の中で起きた出来事、この田舎町、アメリカという国、そのトップにいる人物。それは果たして、あなたが思っているようなものなのだろうか?と問いかけてくる気がするのです。この映画で描かれる3人の主要人物に対するミスリードは、一種の寓話に過ぎないのではないか、と。
マーティン・マクドナー監督が映画監督、そして脚本家としても世界的に認められる出世作となったわけですが。僕は、アカデミー監督賞はともかく少なくとも脚本賞にはノミネートされるべきだったんじゃないかと思います。
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7位『ペンタゴン・ペーパーズ』
メリル・ストリープ、トム・ハンクス主演!『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』予告編
1971年にベトナム戦争に関する政府報告書である「ペンタゴン・ペーパーズ」の存在を、NYタイムスがスクープしました。すでにベトナム戦争は泥沼化してましたが、アメリカ政府はベトナム戦争に負けることが分かっていながら、戦争を続けていたというのです。
ただ、本作の主人公はNYタイムスではなく、ワシントン・ポスト紙です。政府はスクープを載せたNYタイムスの記事を差し止めようとします。それに対し、当然タイムス側は抵抗。ワシントン・ポストも「ペンタゴン・ペーパーズ」を入手し、独自に記事を掲載します。機密漏えいの罪と報道の自由とが裁判の場で争うことになったのです。
裁判の結果がどうなったのかは調べればわかりますが、重要なのは、国家が重大な隠ぺいや国民に対しての背信行為を行った時にジャーナリズムはどう対するかということです。NYタイムスもワシントン・ポストも、ジャーナリズムの信念に基づいて記事を掲載したのです。
これは、フェイクニュースだなんだとトランプ大統領に言われ放題の現在のメディアに対して、「かつてのメディアはこんな気概を持っていたぞ。お前らはどうなんだ?」とハッパをかけているような映画だと思います。
スピルバーグは脚本を読んで「これは今すぐ映画にしなくてはならない」と思ったそうです。実際に、撮影開始から約半年という短期間で映画は完成しました。
正直、急いで作った感が所々あるのは否めませんが、メリル・ストリープやトムハンクスはじめ役者陣の奮闘もあり重厚な社会派ドラマに仕上がっています。この映画自体もまた、プロの気概を感じる仕事だと思います。
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6位:『万引き家族』
【公式】『万引き家族』大ヒット上映中!/本予告
カンヌでパルムドールを受賞という驚きのニュースから、「万引きを助長している」などという言いがかりのような的外れな批判まで、とにかく話題を集めた是枝裕和監督最新作。
家族を家族たらしめるものは何なのか。それは決して血のつながりというだけではなく、血がつながっていたとしてもそれだけで勝手に家族になるわけではない。そのための努力や、プロセスや、相互理解を経なければ家族になることはない。そういう、是枝監督が今まで描いてきたテーマの集大成ともいえる作品だと思います。
この家族は血はつながっていなくても、今の時代忘れ去られたような家族の絆がある、的に美化する見方もあるのだとは思います。けれど、結局はここに出てくる大人たちは犯罪者であり、いざとなれば自分の利益のために相手を捨てる人たちなのです。それも含めてこの家族はきちんと自分たちのやったことへの報いを受けるわけですね。
ただ問題なのはなぜこういう疑似家族ができてしまうのかということでしょう。「本当の家族」の枠組みから外れたり、そもそも親に捨てられたり、様々な問題を抱える中で居場所がなくなってしまう人はいるでしょう。この映画は独居老人やネグレクト、虐待、ワーキングプアなどいろいろな社会問題を内包しています。
いろいろ欲張った分掘り下げが不十分なところはもちろんあるのだけど、考えるきっかけにするには十分だと思います。物語後半の安藤サクラの演技がとにかくすごくて、ずっとうなってました。
興味あるなし、好き嫌いはもちろんあるでしょうが、2018年に見ておくべき一本だったのは間違いないと思います。
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(続く)
ただの「芸術」ではない。
■Cornelius Mellow Waves Tour 2018
■2018/10/24@札幌市教育文化会館大ホール
昨年のツアーに続き、「Mellow Waves」を冠したツアーが今年も敢行される。日本だけでなく世界中をツアーしてきているので、メンバーとの呼吸も映像とパフォーマンスのシンクロ率もさらに精度が上がっていることだろう。
昨年の『Mellow Waves』に続き、今年は「デザインあ」のサウンドトラックを2枚、そして新作『Ripple Waves』をリリースしている。『Ripple Waves』は『Mellow Waves』以降の楽曲を収録していて純粋な新作というよりはコンピレーション的な色合いも強いが、前作が10年ぶりの新作だったことを思えばこうした精力的な活動は嬉しいことである。
ということで昨年のツアーにさらに新曲もプラスされたセットとなってのツアー。否が応でも期待は高まる。
しかしいきなりのトラブル。1曲目「いつか/どこか」で、おそらく演奏が2小節ほど飛ばしてしまったのだろう。映像に歌詞が出るのだけど、その歌詞と演奏がズレてしまった。映像と音楽のシンクロが肝である彼らのステージにおいて、これは致命的なミス。アンコール前のMCで小山田圭吾も苦笑していたが、弘法にも筆の誤り。稀にこういうこともあるということか。ある意味、人間臭い部分が見れた貴重な機会と言えるかもしれない。
新曲としてセットに加わったのは『Ripple Waves』からの「Audio Architecture」と「Sonorama 1」。特に「Audio Architecture」は音楽を構成する要素がそのまま歌詞になったようなミニマルな曲で、それを映像とともに再現していく面白い構成だった。今後もライブの定番曲として定着しそうな気がする。
メンバー4人の呼吸はさすがの一言で、タイミング含めてかなりの練習を積んでいるとは思うけど、それにしても何度見ても感嘆する。1曲目のミスが象徴するように、1小節、音符1個間違えば曲全体のパフォーマンスが崩れてしまうのだ。その緊張感はどれほどのものか知れない。
今回はライブハウスではなくホールでの公演だったので、殆どの観客はアンコールやラストまで座ったまま鑑賞していた。そのためか緊張感はより強く感じられた気がする。決して観客席と密にコミュニケーションを取るタイプのライブではないけれど、昨年のツアーのようにライブハウスで見る方が個人的には好きだ。
前に「鑑賞」と書いたけど、本当に芸術作品を見るような雰囲気になってしまう。コーネリアスの音楽やライブにはそれだけではないグルーヴがちゃんとあるので、それを感じるには僕はスタンディングの方がいいと思う。
1.いつか/どこか
2.Point Of View Point
3.Audio Architecture
4.Helix/Spiral
5.Drop
6.Another View Point
7.The Spell of a Vanishing Loveliness
8.Mellow Yellow Feel
9.Sonorama 1
10.未来の人へ
11.Count Five or Six
12.I Hate Hate
13.Surfing on Mind Wave Pt2
14.夢の中で
15.Beep It
16.Fit Song
17.Gum
18.Star Fruits Surf Rider
19.あなたがいるなら
<アンコール>
20.BREEZIN'
21.Chapter 8~Seashore And Horizon~
22.E
Cornelius (full show) - Live @ Sónar 2018
- アーティスト: Cornelius,Rogues Nana Bediako,Drake,Noah Shebib
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共に生きるバンド。
■eastern youth 極東最前線/巡業2018~石の上にも三十年~
■2018/10/06@cube garden
イースタンユースのライブを見るのは本当に久しぶりで、2015年のツアー、つまり二宮友和在籍時のラストツアー以来。
それ以降、フェスやツアーで見る機会はあったものの、都合がつかず見れずじまいだった。ということで個人的には今更ながら村岡ゆか加入以後初めてのライブということになります。
1曲目は昨年のアルバム『SONGentoJIYU』から「ソンゲントジユウ」。もう、この時点で涙腺がヤバかったです。自分でもゆるゆるだなと思うのだけど、久々に浴びた歪んだギターの轟音と吉野寿の声に、それだけで涙が出てきてしまった。「夜明けの歌」「街の底」「沸点36℃」と続いた序盤はいきなりクライマックスかというくらいのテンションでした。
ツアータイトルにもあるように結成から30年。吉野寿は50歳になった。大ヒットとは縁遠いまま、それでも聞いた者の心に確実に楔を打ち込みながらここまで来た。その歩みを確かめるように、懐かしい曲も多く演奏されていた。
初めて見た村岡ゆかのプレイはもちろん二宮友和とは違う。けれど、個人的には違和感は感じなかった(すでに2年以上経っているのだから当然と言えば当然だけど)。元々イースタンユースの大ファンだったということもあってか、バンドの世界を理解して邪魔しないように、そして丁寧にプレイしているように見えた。ブレイクの部分や曲の締めではまばたきもせず、その呼吸を確かめるように吉野を凝視していたのが印象的だった。
僕とイースタンユースの付き合いも軽く20年を超えた。社会人になって色々と迷い葛藤していた20代後半の頃、とにかくイースタンユースを聞いていた。札幌出身の自分にとってはイースタンユースは地元のバンドという感覚があるけれど、吉野自身はそうでもないらしい。「札幌に住んでたのって、実質2、3年ですよ。その前は帯広で、あとはずっと東京。」それでも、ツアーで帰ってくると当時の記憶が蘇るらしい。
「テレビ塔」を聞いていたら、自分にとって大きな転換点だったここ2,3年のことをぼんやりを思い返していた。やはりイースタンユースは自分の人生にとってとても大事なバンドだ。そのことを改めて再確認させてくれるライブだった。
もうすぐ、雪が降る。
1.ソンゲントジユウ
2.夜明けの歌
3.街の底
4.沸点36℃
5.循環バス
6.街はふるさと
7.ドアを開ける俺
8.月影
9.地下室の喧騒
10.男子畢生危機一発
11.青すぎる空
12.矯正視力〇.六
13.時計台の鐘
14.いずこへ
15.雨曝しなら濡れるがいいさ
16.夏の日の午後
17.砂塵の彼方へ
<アンコール1>
18.テレビ塔
<アンコール2>
19.踵鳴る
- アーティスト: eastern youth
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- 発売日: 2017/09/27
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eastern youth「ソンゲントジユウ」 ミュージックビデオ