無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

RISING SUN ROCK FESTIVAL 2018 in EZO感想(1)~RAIN-DANCEがきこえる

■2018/08/10@石狩湾新港特設野外ステージ

1999年の1回目から数えて20回目のライジングサン。僕にとっても20回目のライジングサン。今年は出てくるアーティストも「20回おめでとう」「20周年おめでとう」という声が多く聞かれました。正確には20周年は来年なのだけど、まあその辺はいいとして、区切りの祝祭ムードに包まれていたのは間違いないのです。

会場内で会った知り合いや友人とも、過去のRSRの思い出などが話題の中心だった気がします。かと言ってそういう話になってもパッと思い出話やエピソードトークが出てくるわけでもなく。年々記憶も薄れていく中で、せめて形に残るように備忘録としてこうして毎年駄文を書き連ねているわけでございます。よろしければお付き合いください。

8月頭くらいまでは晴れの日が続き、気温も30度に届こうかという日が続いていた札幌でしたが、RSRの週になって一気に気温が下がってきました。天気も悪くなり、前日から雨。

基本は曇りでも問題ない、多少雨が降るのは仕方がないだろう。長靴は用意するとして、去年のような田んぼフェスティバルになりはすまい。この時点では、そう思っていました。

8時に道外の友人たちと待ち合わせをした時点では雨。会場内駐車場の列に並んだのが9時半ごろ。徐々に雨は上がり、晴れ間すら見えてくるほどでした。

おお、この調子で持ちこたえてくれれば言うことなしじゃないか。この時点では、そう思っていました。
https://www.instagram.com/p/BmR-c7IhJB5/
来て早々靴が壊れました。 #rsr18 #コロンビアブースでなんとかしてくれるかな

今年は会場のレイアウトが大幅に変わりました。風力発電の設備が会場内に建てられた影響でしょう。簡単に言うと、会場内駐車場とサンステージ含む周辺のテントエリアがそっくり入れ替わった形です。

今年は会場内駐車場もすんなり確保できてよかったと思っていたのですが、その会場内駐車場のオペレーションが最悪でした。これについては2日目のほうがさらに最悪だったので、そこで書こうと思います。

何はともあれ駐車場に荷物を置き、必要なものを持って会場に。テントエリアはジャガイモでした。アーステントのほぼ目の前です。その割に、アーステントに行く割合は年々減っているのですが。

今年は4区画で6つのテントを立てるという密集状態でしたが、全然いけました。テントを立て終わりみんなで乾杯。曇っていますが、まだ雨は降っていません。今思えば、テントを立てている時が一番天気が良くて暑かった気がします。
https://www.instagram.com/p/BmSQ8V5hwBU/
チキンカレー&ナン。 #rsr18

今年のライブはボヘミアンのスカートから始めました。生で彼らのライブを見るのは初めてだったのです。ボヘミアンでモヒートを飲みながら見るのに最高なライブでした。

とにかく曲がいい。ギターの音が気持ちいい。澤部渡はあの大きな体躯でとても美しい声で、そして繊細に歌う。そのギャップもいいです。

もうブームというには旬を過ぎていると思いますが、いわゆるシティポップ的な若いバンド。その多くは80年代~90年代の音楽を下敷きにしてちょっと懐かしいアレンジを施した感じのものです。その中にはちょっと7thや9thのコード入れておけばそれっぽく聞こえるでしょ?とお気軽に作ったと聞こえるものも少なくありません。スカートの楽曲はそういうものとは一線を画しています。

圧倒的な音楽に対する知識量と分析能力、そしてそれをオリジナルの楽曲に落とし込むソングライティング能力。そうしたスキルに裏付けられた音楽の深さが一聴しただけで伝わってくる。かと言って頭でっかちにもならず、カッティング一発で客を踊らせるグルーヴも合わせ持っている。好きですねこういう音。『20/20』は傑作ですけど、まだ持ってない過去作も辿って行きたいと思います。

https://www.instagram.com/p/BmTCSNqhPSN/
ボヘミアンでモヒート。 #rsr18

続いてはデフガレージに移動して四星球。この辺からちょっとぽつぽつ雨が落ちてきました。時間になってもメンバーは出てこず。ボーカル北島のアナウンスが流れます。要約すると、どういうライブをやったらいいかわからなくなったのでYahoo!知恵袋に聞いてみた。その答えの通りのライブをやりますというものでした。で、マネキンを置いたらいいんじゃないかということでマネキンに扮したU太とまさやんが運び込まれます。ドラムのモリスはクラーク博士に扮しています。

あとはまあ、いつもの四星球でした。運動会あり、段ボールあり、あいかわらずアホでした。楽しかったです。RSRは2年ぶり2回目ですが、どうせならデフの門番として毎年来てくれたらいいと思います。

■四星球
1.クラーク博士と僕
2.運動会やりたい
3.Mr. Cosmo
4.HEY! HEY! HEY!に出たかった

再びボヘミアンに移動。結構、雨が本格的になってきました。今年見ておきたかったアーティストの一人、NakamuraEmiです。演奏はアコースティックギターヒューマンビートボックスのみという非常にシンプルな構成。

NakamuraEmiはとても小さな体で、非常にパワフルに歌う人でした。音源で聞いた時も思ったのですが、カワムラヒロシのギターはアコースティックでも非常に切れ味が良く、絶妙なブレイクの入れ方とか実に上手いと思います。簡単に言えばめちゃくちゃグルーヴ感がある。

言葉の乗せ方は完全にヒップホップの感覚でありながらメロディーとコード感が失われていないので非常にキャッチー。サビの爆発力もあるので、今後もっと注目されていくアーティストだと思います。最新作に収録されている「新聞」という曲がとてもグッときました。ライブ初めて見ましたが、良かったです。今度はワンマンも行ってみたい。

NakamuraEmi
1.Don't
2.大人の言うことを聞け
3.かかってこいよ
4.(新曲)
5.新聞
6.モチベーション
7.YAMABIKO

ボヘミアンを後にして、急いでレッドスターに移動。今回、ここの導線が非常に狭く、慢性的に渋滞していました。マップを見てもらうとわかるんですけど、レッドスターからボヘミアンに行こうとするとサンステージやアーステントも同じ方向にあるんですね。同じ道を通らなくてはいけないんです。今回のレイアウトだとグッズ売り場の後ろの方なんですが、とにかく渋滞してました。なので、ここを通る時には時間的に余裕を見ておかないといけない感じでした。昨年まではサンステージやアーステントは反対側にあったので、レッドスターからボヘミアンに行く人とサン、アースに行く人は反対方向なのでカチ合わなかったわけです。この辺は、来年以降考えてほしいところです。

さて、アジカン。ちょうど1曲目「センスレス」の途中から見てました。ベストヒット連発!でもなければマニアックすぎる!というわけでもなく。フェス向きではなくてもファンには人気の曲を押さえるという感じのセットでした。何となく序盤は『ファンクラブ』時期のツアーのような雰囲気を感じましたね。「サイレン」無限グライダー」あたりはじっくりと聞いてました。後半の「Re:Re:」や「リライト」ではやはり盛り上がります。

ただ、デビューから15年以上経ってアジカンというバンドのシーンでの立ち位置や役割は確実に変わったんだな、という印象は受けました。言ってしまえばもうベテランなわけで、今後どういうやり方で自分たちの音楽を追及していくのか、分岐点に来てるのかなという気がしました。ラストに演奏したのはbloodthirsty butchersのカバー。これがなかなか良かったです。

ASIAN KUNG-FU GENERATION
1.センスレス
2.ブルートレイン
3.サイレン
4.無限グライダー
5.ノーネーム
6.マーチングバンド
7.Re:Re:
8.リライト
9.今を生きて
10.banging the drum(ブッチャーズのカバー)

(続く)

2018年・私的ベスト10~音楽編(2)~

洋楽編です。邦楽編と同じく順位は無しで、5枚選んでいます。何となくですがジャンル的にうまいことばらけたセレクトになった感じです。

Years&Years『Palo Santo』


Years & Years - All For You

2018年はフジロックにも出演したイヤーズ・アンド・イヤーズ。本作は未来の架空の惑星「パロ・サント」を舞台としたコンセプト・アルバムになっています。

リリースに先駆けて公開されたショート・フィルムでもオリー・アレクサンダー自身が主演し、ジュディ・デンチがナレーションをつけるという力の入れよう。人間が奴隷のように売買されているディストピア的な世界の中でカリスマ的に崇められるダンサーをオリーが熱演しています。

こうしたコンセプトが前面に出ると単純にダンス・ミュージックとしての機能性が失われる可能性が高いのだけど、本作はうまく回避しています。歌詞を見なければそんなに重いストーリーを歌っているとは思えません。

本作のコンセプトにはゲイをカミングアウトしたオリーの個人的なストーリーが反映されていると思うのだけど、決して踊れる部分に目をつぶっていないのがいいと思います。「ハレルヤ」はDJでも結構かけさせてもらいました。

Palo Santo (Deluxe)

Palo Santo (Deluxe)

  • イヤーズ&イヤーズ
  • ポップ
  • ¥2200

Drake『Scorpion』


Drake - In My Feelings

今のアメリカの音楽シーンはほぼヒップホップがチャートのトップを占めています。中でも最も売れているのがドレイク。

時代が違うので何とも言えませんが、ビートルズのチャートイン曲数記録や年間1位獲得回数などの記録を塗り替えるというのはすごいと思いますし、2018年はまさにドレイクの1年だったと言えるのではないでしょうか。

正直日本のドメスティックなロックやJ-POPシーンを見ているとドレイクの何がそんなにウケているのかわかりづらい面もあります。外見も含めたイケてなさを隠さない正直さはいいと思うし、ティーン・アイドルからラッパーというキャリアも、所謂ストリート系のヒップホップとは違います。どこにいても批判は来るし、こういう腰のすわりが悪いスーパースターというのはある意味今の時代を象徴しているのかもなあ、という気がします。

Scorpion

Scorpion

  • ドレイク
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥1100

Young Gun Silver Fox『AM Waves


Young Gun Silver Fox - Take It Or Leave It (Official Video)

UKのソウル・ファンク・バンド、ママズ・ガンのアンディー・プラッツと、トミー・ゲレロエイミー・ワインハウスの楽曲を手がけてきたショーン・リーの二人によるユニットのセカンド・アルバム。前作も70年代のAORディスコ・サウンドを堂々とリバイバルした快作でしたが、本作も素晴らしかったです。パッと聞いて2018年にリリースされた音楽とは思えないレトロっぷり。

その気持ちよさ、カッコ良さにはあらがえないのです。単純に好みです。リアルタイムでその辺の音楽に触れていた世代はもちろん、懐古的に彼らの音楽を愛でるのでしょう。しかし若い世代でも80年代以前の音楽への興味は広がっています。普通に、今聞くべき音としてこういうものもアリなのではないでしょうか。サブスクリプションであらゆる時代の音楽にアクセスできる現在は逆にそういう時代なんじゃないかなと思います。

AM Waves

AM Waves

  • YOUNG GUN SILVER FOX
  • R&B/ソウル
  • ¥1650


Janelle Monae『Dirty Computer』

Janelle Monáe - Screwed (feat. Zoë Kravitz)

『ムーンライト』や『ドリーム』で女優としてもその地位を固めた感があるジャネール・モネイ。本業のシンガーとしてリリースした最新作です。

先行シングル「Make Me Feel」がプリンスの「Kiss」に似ていると言われてましたが、実際にアルバムに生前のプリンスが参加していたという話ですね。その他、ブライアン・ウィルソンファレル・ウィリアムスレニー・クラヴィッツの実娘であるゾーイ・クラヴィッツなど豪華なゲスト陣が参加しています。

決してヒップホップ・オリエンテッドではないR&Bやソウル・ミュージックという意味でも本作がヒットした意義は大きかったと思います。内容的にも文句のつけようがない素晴らしいものでした。


Mitski『Be The Cowboy』

Mitski - Nobody (Official Video)

ミツキはアメリカ人と日本人のハーフであるミツキ・ミヤワキのソロ・プロジェクト。本作は5枚目のアルバムということになります。

コンテンポラリーな洋楽から松任谷由実中島みゆき椎名林檎などからも影響を受けたというそのソングライティングは非常にユニーク。しかし決して日本的な情緒に流されるわけではなく、どこか乾いたシニカルさも持ち合わせています。

気だるく、しかし軽さを失わない彼女のボーカルはとても魅力的です。そしてサウンド的には非常にオーソドックスなギターポップ。どこか90年代前半のオルタナティブを思わせる雰囲気があります。

全体に漂う孤独感や寂しさは米国在住の日米ハーフという彼女自身の生い立ちにも関係しているのかもしれません。こういう「居心地の悪さ」というのは今後さらにポップミュージックの大きなテーマのひとつとなっていく気がします。


以上です。
更新頻度は相変わらずだと思いますが、今年もよろしくお願いします。

2018年・私的ベスト10~音楽編(1)~

明けてしまいましておめでとうございます。

本当にもう年々、新しい音楽をじっくり腰を据えて聞くことが少なくなってきました。正直目新しい驚きや意外性に乏しいラインナップになっていると思います。

今年は順位はつけていません。邦楽から5枚、洋楽から5枚で計10枚選んでいます。まずは邦楽編から。

エレファントカシマシ『WAKE UP』


エレファントカシマシ「Easy Go」Short ver.

前作『RAINBOW』以来2年半ぶりの23枚目(!)のオリジナルアルバム。昨年の30周年記念ベスト盤と全国ツアーという大きな節目を終え、文字通り新たなスタートという意味合いのアルバムとなります。

ただ、口で言うのは簡単でもこの「新たなスタート」というのはなかなか厄介だと思うのです。特に、言いたくはないですが歳を取ると新しいものや環境と適応するのが億劫になってくる。

本作は宮本浩次をはじめメンバー全員が50歳を超えての最初のアルバムになります。「Easy Go」という、エレカシ史上最速のパンク・ナンバーをはじめ、本作には本気でここからリスタートするのだという気合がみなぎっています。

どの曲も、それこそ曲調としては「Easy Go」の対極にあるような「風と共に」ですら、とにかく「前へ進む」ことしか歌っていない。この力はどこから出てくるのだろう。こういう人たちが人生の先輩として前を歩いていてくれることに感謝したい。そんなアルバム。

tofubeats『RUN』


tofubeats -「RUN」

tofubeatsは早くから注目されていたし、メジャーデビューしてからだってすでに5年以上が経っているし、新世代の旗手云々的な文脈で語ることはもうできなくなっていると思います。もうすでに中堅からベテランの域に入っていると思うんですね。

ポップスとしてもクラブミュージックとしても彼がやろうとしていることがすでに王道ど真ん中という時代なんだなあと改めて感じるようなアルバムでした。

最近のタイアップにしても、目新しさではなくて彼の音や言葉が必要だから選ばれているという気がします。

前作『FANTASY CLUB』以降ゲストフューチャリングはめっきり減り、シンガーソングライター的なアプローチが増えてきました。本作もその流れに沿っています。個人的にはその方向も、彼のアーティストとしての覚悟のようなものの表出だと思っています。

Run

Run

宇多田ヒカル『初恋』


宇多田ヒカル Play A Love Song

活動再開してからの宇多田ヒカルは憑き物が落ちたという感じで、いろんな意味で迷いが無いと感じます。母親に捧げたような前作『Fantome』に比べるとテーマ的にはそこまで重くはないし、むしろ開放感のようなものすら感じます。

それでも今作も生や死ということが歌われています。そういうテーマにしようというよりも、今の彼女が普通に曲を作るとそういうものがにじみ出てくるのでしょう。

全体のサウンド的にはあまり時流というものを意識していないように思いますが、今作でも新しい才能をフックアップしていて、彼女自身がハブのような存在として新しい音楽や才能を発信する装置となっているかのようです。

デビューから20年を経て、デビュー作『First Love』に対しての『初恋』。イヤでも対比したくなるタイトルですが、ひと回りしたということよりも、彼女がこの20年間でどれだけ人間として、アーティストとして成長したのかということが重要なのだと思います。今の宇多田ヒカルの音楽にはそういう奥深さが備わっています。

Perfume『Future Pop』


[Official Music Video] Perfume 「Future Pop」

完全にフューチャーベースに移行してきていた最近のPerfumeですが、その方向性についての決定盤と言えるアルバムになっていると思います。

今のPerfumeをアイドルとして見る向きは既に少数派でしょう。少なくともJ-POPの範疇の中で他のアイドルと比較することはできなくなっていると思います。

ライブパフォーマンスにしてもサウンドにしても、完全に世界規模で普通に認められるところまで来ています。その中であくまでも東京発であるところを意識して活動しているのは2020年に向けてのメッセージも含まれているのかもしれません。

Perfumeは誰も見たことのない場所に行こうとしているのは間違いありません。三十路を迎えた彼女らがどんな場所でどんな景色を見せてくれるのか、こちらは身を任せるしかないのです。

Future Pop

Future Pop

  • Perfume
  • エレクトロニック
  • ¥2200

星野源『POP VIRUS』

年末に飛び込んできた究極のポップ・アルバム。星野源が現在の星野源たるスケールとやりたいこととスキルの全てを結集したアルバムと言っていいのではないでしょうか。

正直、1年前までは次のアルバムは『YELLOW DANCER』を超えないだろうと思っていました。それが変わったのは「アイデア」のフルコーラスを聞いてからです。

星野源は自分が聞いてきた音楽、自らのルーツや趣味志向に対して非常に自覚的なアーティストです。そのルーツを隠さず、時には明確なオマージュも行いながら、換骨奪胎してコンテンポラリーな音楽に仕上げています。『YELLOW DANCER』ももちろんそういうアルバムでしたが、本作にはさらに未来のポップス観のようなものが示されている気がします。

そしてこのアルバムにはとにかく音楽を聴くことの意味、とりわけアルバムとして1枚通して聴くことの意味が詰まっていると思います。既発曲も、どれもが単発で聞いた時と違う感覚で聴こえてくる。音楽を愛し、愛された男がリスナーに対して音楽を愛してください、と訴えかけるアルバム。それだけでもうちょっと泣けてくるんですよね。

ただひとつ今の星野源に文句があるとすれば、彼は自分が曲や音に込めた意図を説明しすぎの感があります。ラジオでもどこでもそうですが、例えば彼が本来意図したのではない受け止め方をしたリスナーがいたとしたら「そうじゃないんだよね、」と説明をしてしまう。

僕個人は誤解されることも含めてポップミュージックだと思うので、あまりそういうことはしてほしくない。そして、説明することに慣れてほしくもない。じゃないと、自分で説明できないことを音楽にできなくなってしまうと思うのです。

まあ、そんなことは星野源はわかりきっていることだとは思いますが。

2018年・私的ベスト10~映画編(2)~

5位『ヘレディタリー/継承』


『へレディタリー/継承 』予告編 (2018年)

家長であるエレンの死をきっかけに、グラハム家に起こる奇妙な出来事とその顛末を描くホラー映画。

確かに血しぶきやグロい場面も多いですが、この作品にはゾンビや猟奇殺人といった一般的なホラー映画ではありません。もっと、背中の奥から気持ち悪さやヤバみがこみあげてくるような映画です。

万引き家族』のように、世間一般的な家族の枠からはみ出てしまった人たちの運命も悲惨ですが、端から見て普通の家族に見える関係の中で家族関係が崩壊していくこともまた地獄でしょう。そしてそこから逃れられない、と気づいた時の絶望たるや。

この映画の怖さには宗教というものが大きく関係しています。『エクソシスト』や『ローズマリーの赤ちゃん』といった過去のホラー傑作と比較されるのもそのためでしょう。

いわゆる超常現象的な描写もたくさんありますが、この映画のキモはそれよりも日常や今までの人間関係や、何より家族という血のつながりの中に恐るべき闇が潜んでいることへの恐怖なのだと思います。

一歩間違えば自分の身にも起こっていたかもしれない、という怖さ。この辺の距離感でこの映画の怖さはかなり個人差が出てくるように思います。

しかし本作の恐怖描写は本当にすごいです。視覚のみならず、聴覚、音で「いる」ことを示す演出などその最たるもの。緊張と緩和でなく、どんどん緊張と恐怖が積み重なっていくアリ・アスター監督の演出はとても初監督作と思えない手腕です。

4位『シェイプ・オブ・ウォーター


『シェイプ・オブ・ウォーター』日本版予告編

本作はギレルモ・デル・トロ監督が子供の頃『大アマゾンの半漁人』という映画を見た経験が元になっているそうです。デル・トロ監督は映画の中で半漁人とヒロインがハッピーエンドを迎える話を夢想し、イラストやストーリーを描いていたと言います。

本作では発語障害のヒロインの他、主人公側の人間は黒人女性やゲイの老人など、マイノリティ、社会的弱者ばかりです。ヒロインも決して美女ではない。移民出身であるデル・トロ自身も含め、虐げられてきた人々に対する監督の想いが反映されていると思います。

「強いアメリカ」の象徴でもあるようなマイケル・シャノン演じるストリックランドをはじめ、キャラクターはある種形骸化されたような、分かりやすい描かれ方をしています。それはおとぎ話だから問題ないのでしょう。正直ソ連アメリカの冷戦を中心とした1960年代の時代背景など、おとぎ話というには生々しい部分が目立つ気もしますが、セットや色調の美しさがそれを凌駕していたという感じです。

モンスター映画、怪獣映画という枠ではなく、監督はあくまでも王道のラブストーリー、おとぎ話として徹底してブレずに作られているところが良かったですね。異形なるものと人間の恋愛おとぎ話という意味で『シザーハンズ』を少し思い出しました。とにかく青と緑の色が美しくて、字幕も薄緑色だったのがニクイです。

3位『ボヘミアン・ラプソディ


映画『ボヘミアン・ラプソディ』最新予告編が世界同時解禁!

クイーンの、というかフレディ・マーキュリーの伝記映画。結成から成功を経て、空中分解しそうになったバンドが再び一つになり、1985年のライブエイドでのステージをクライマックスとしています。

フレディと元恋人であり生涯の友人であったメアリー・オースティンとの関係を含め、ファンであればほぼ知っているだろうエピソードがほとんどで、非常にテンポよく物語が進みます。そしてそれを彩るのは当然、クイーンのヒット曲、名曲の数々。クライマックスのライブエイドの映像は個人的にはリアルタイムで見ていたし、その後も映像で見たもの。その前後のシーンと合わせ、最後の方は涙と鳥肌が止まりませんでした。

フレディ役のラミ・マレックは見た目はもちろん、喋り方からステージパフォーマンスまで完全にフレディでした。完全に何かが憑依しているのではと思うほどの凄まじさです。その他のメンバーもそっくりで、ライブエイドの映像は元のものをそのまま使っているのでは?と思うほどのクオリティでした。バンドの栄枯盛衰を描いた映画は数あれど、その中でも屈指の名作として語り継がれるのではないでしょうか。この後に、1986年伝説のウェンブリー・スタジアムでのライブDVDを見たくなりますね。

家族にも社会にも居場所のない、つまり「ボヘミアン」だった若者(フレディ)がバンドや友人という「家族」に支えられながら生きていく物語になっていたと思います。最後に本当に家族の元に帰り、認められるという展開も涙なしには見られません。

事実と違う点があるという指摘はごもっともなのですが、クイーンというバンドの持つドラマ、フレディ・マーキュリーという人の伝説性を強調する意味でこの改変というか「脚色」はアリだと思います。何でもかんでも真実を伝える事が全てではないでしょう。リアルよりリアリティ。

何にせよ、ブライアン・メイによる20世紀FOXファンファーレから本当に最高の音楽映画でした。

2位『カメラを止めるな!

今年の邦画では最も注目を集めた作品ということになるのではないでしょうか。興行収入では『名探偵コナン』とか、他にも大ヒット作品がありますが、ここまで社会現象ともいえる状況を作った作品は他にないと思います。そして実際、それに値するだけの面白さを持った映画でした。

今更とは思いますが、やはりネタバレは控えます。というと物語についての感想は何も言えなくなってしまうんですが、「この映画は二度始まる」という宣伝コピーに嘘はないということは言っておきます。序盤の30分間、頭の中に「?」や違和感や「アチャー」という感想が出てきても、無視することです。それらを全て回収する見事な展開と、爽快感。そして感動とちょっと泣けるラスト。見事だと思います。

演劇のワークショップから展開した作品ということで、脚本も役者さんにアテ書きで書かれているそうです。ほぼ無名の役者さんばかりですが、ハマってるなと思うのはそういうところなのでしょう。低予算の映画が口コミでこれだけの社会現象を巻き起こすという、邦画ではなかなか見られないシンデレラストーリー。監督にとっては次の作品のハードルが限りなく高くなったでしょうが、今後も楽しいに注目したいです。

1位『バーフバリ 王の凱旋』


『バーフバリ 王の凱旋』予告編

厳密に言うと昨年公開になった映画なのですが、2017年12月29日だし、ほぼ今年ということで入れさせていただきます。そしてこれも本来ならアウトでしょうが、前作『バーフバリ 伝説誕生』との合わせ技1位ということでお願いします。

古代インドの架空の王国を舞台に、親子2代にわたる王家の物語を壮大なスケールで描いた娯楽超大作。インド映画には疎い自分も、さすがに『ムトゥ 踊るマハラジャ』でイメージが止まっているわけではない。にしても、ここまで王道のエンターテインメントを真正面から直球で作れるとは驚きでした。とにかくスケールがでかい。そして絵が美しい。

物語は本当に王道で、ありきたりと言ってもいいくらいのシンプルなストーリーです。最終的にどういう結末になるかはわかっているのに、胸が熱くなる。簡単に言うと見ていて燃える、熱い展開なのです。

スローモーションや決め絵を多用した大仰な画面構成は明らかにザック・スナイダー以降のハリウッド映画の影響を感じさせます。でも今のDCユニバース映画のように画面が暗くなく、鮮やかで明るい絵なので見ていて気持ちいいのです。物語の展開と相まって、「ここで来る!」「はいキた、バーン!」の連続。一つ一つのエピソードや展開はどこまで見たようなものばかりでも、全く新鮮な映画体験を楽しむことができました。

回想シーンでの画面と、その後の現在の画面がうまく呼応するような構成になっているとか、実は緻密に計算されて作られているのだと思います。長いけど飽きませんし、難しく考えることのない映画なので未見の方は年末年始にいかがでしょう。

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バーフバリ2 王の凱旋 [Blu-ray]

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というわけで、少ない中から10本選びました。『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』ももちろん素晴らしかったのですけど、『インフィニティ・ウォー』は来年公開の続編とニコイチという考えがあるので、選びませんでした。『ブラックパンサー』も『ミッション・インポッシブル:フォールアウト』も面白かったなあ。今からでもジュマンジと入れ替えようかなあ!という感じです。来年はもう少し映画館に行けるといいなあ、と思っております。

2018年・私的ベスト10~映画編(1)~

今年は映画館で見た作品が少なくて。見たかったやつを見逃して後からブルーレイで見直すパターンも多かったです。なので非常に狭い範囲でのベスト10です。

10位『ジュマンジ ウェルカム・トゥ・ジャングル』


映画『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』新予告

1995年の映画『ジュマンジ』の続編。ということになっているのだけど、前作を見ていなくても大丈夫です。

ロック様ことドウェイン・ジョンソン主演のアクション映画ということで誰でも楽しめるお気楽エンターテインメントでしょ?と若干バカ映画扱いされているかもしれません。しかし見てみたら意外に拾いものでした。

問題を起こした生徒4人が学校で居残りを命じられる、という冒頭から明らかに『ブレックファスト・クラブ』を引用した展開になっています。ジョン・ヒューズ監督による、1985年の青春映画の歴史を変えた傑作です。

その4人は童貞ガリ勉オタク、スポーツマン、かわいこちゃん、オタク女子。ゲームの世界に引きずりこまれた4人は現実とはかけ離れたキャラクターになり、それぞれのスキルを駆使してゲームをクリアし現実世界に戻ろうとするわけです。

その中でそれまで別の世界にいた者同士がお互いに理解を深め、親密になっていくという展開はまさに『ブレックファスト・クラブ』そのもの。青春映画の金字塔と言えるこの名作を下敷きにしている時点で、単なる娯楽アクションとは違った趣になっています。

SNS依存症のかわいこちゃんがジャック・ブラックになるという時点でコメディ要素たっぷり。あとは『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』ではガチガチメイクでネビュラを演じていたカレン・ギランが素顔で出てますが、めちゃくちゃキュートで最高ですね。

『ブレックファスト・クラブ』と違って現実に戻った彼らが普通に仲良く学校生活を送るあたりはちょっと物足りなさを覚えるところですが、そこはまあ良しとしましょう。

9位『アイ・トーニャ 史上最大のスキャンダル』


『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』予告編

1994年のリレハンメル五輪の選考会となる全米フィギュアスケート選手権直前に起こった「ナンシー・ケリガン襲撃事件」。当時日本でもワイドショーを賑わせたこの事件を中心に、トーニャ・ハーディングの半生を綴っていく映画。

実際の事件を元にしているし、俳優たちは実名の役で、カメラに向かってインタビューに答えるように演技する。いわゆるフェイク・ドキュメンタリーの手法を取っているのだけど、その実、何が真実なのかはこの映画を見てもわかるわけではありません。

当事者たちの証言が食い違っていて、それをそのまま映像化しているので見ていても何が本当なのかわからなくなってくる。

しかしこの映画の目的は真実を明らかにすることではなく、なぜこんな事件が起きたのかをトーニャという人の人生を振り返ることで推測することであり、そしてよくわからない事件をよくわからないものとしてそのまま映像化することなんだと思います。

テンポよく話が進むし、登場人物が観客に向かって語りかける、いわゆる「第四の壁を破る」手法がとられている。そして70年代~80年代のロックナンバーがガンガンかかる中、実際に起きた事件を描いていく。

これはまさにフィギュアスケート版『ウルフ・オブ・ウォール・ストリート』でしょう。出てくるキャラクター全員頭がおかしくてバカなところも似ています。エンドクレジットで、実際のインタビューやニュースの映像が出てくるのだけど、 どのキャラクターも似すぎてて笑えます。

唯一脚色というか、想像で描いたのは母親でしょうか。実際この部分が一番ドラマ的であり、強烈なキャラクターを見事に演じたアリソン・ジャネイはアカデミー受賞も当然のインパクトです。

全体に悲壮な感じにならず、あくまでもカラッと仕上げたところが高感度高かったです。

あと、トーニャの幼少期を演じたマッケナ・グレイスちゃん。『ギフテッド』でも最高の演技を見せてましたが、ここでもちょっと大人になった彼女が素晴らしい演技を見せてます。この人、あと数年経ったらハリウッドでも最高の若手女優になるでしょうね。

8位『スリー・ビルボード


アカデミー賞有力!映画『スリー・ビルボード』予告編

ミズーリ州の寂れた道路に掲示された巨大な3枚の広告看板。設置したのは、7カ月前に何者かに娘をレイプされ殺された母親。犯人は一向に捕まらず、何の進展もない捜査状況に腹を立て、警察署長ウィロビーを名指しで批判する広告を出したのです。

最初はとんでもない話だ、とミルドレッドを応援する気持ちで見始めるのだけど、どうも様子が違うのですね。ウィロビー警察署長は人望も厚く、仕事熱心で家庭では良き父親である。名指しで職務怠慢を批判されるような人物ではありません。

そしてミルドレッドは娘を殺されたのは事実でも、決してほめられた人間ではないことが見えてきます。簡単に言えば自己中心的なトラブルメイカー。

もう一人重要な登場人物が署長を敬愛する警察官ディクソン。マザコンで人種差別主義者で、弱いものに対し権力を振りかざす彼は第一印象で最も忌むべき人物です。しかし、映画を観終わった時には観客が最も感情移入するキャラクターになっているでしょう。一言で言えば「おいしい」役。

看板と同じように、人間にも裏と表がある。一面だけ見てその人間を理解できるはずはない。この映画のテーマがそうであるとするならば、そのテーマを最も体現しているのがディクソンだと思います。

ただ、本作のテーマはそれだけではないでしょう。映画の中で起きた出来事、この田舎町、アメリカという国、そのトップにいる人物。それは果たして、あなたが思っているようなものなのだろうか?と問いかけてくる気がするのです。この映画で描かれる3人の主要人物に対するミスリードは、一種の寓話に過ぎないのではないか、と。

マーティン・マクドナー監督が映画監督、そして脚本家としても世界的に認められる出世作となったわけですが。僕は、アカデミー監督賞はともかく少なくとも脚本賞にはノミネートされるべきだったんじゃないかと思います。

7位『ペンタゴン・ペーパーズ』


メリル・ストリープ、トム・ハンクス主演!『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』予告編
1971年にベトナム戦争に関する政府報告書である「ペンタゴン・ペーパーズ」の存在を、NYタイムスがスクープしました。すでにベトナム戦争は泥沼化してましたが、アメリカ政府はベトナム戦争に負けることが分かっていながら、戦争を続けていたというのです。

ただ、本作の主人公はNYタイムスではなく、ワシントン・ポスト紙です。政府はスクープを載せたNYタイムスの記事を差し止めようとします。それに対し、当然タイムス側は抵抗。ワシントン・ポストも「ペンタゴン・ペーパーズ」を入手し、独自に記事を掲載します。機密漏えいの罪と報道の自由とが裁判の場で争うことになったのです。

裁判の結果がどうなったのかは調べればわかりますが、重要なのは、国家が重大な隠ぺいや国民に対しての背信行為を行った時にジャーナリズムはどう対するかということです。NYタイムスもワシントン・ポストも、ジャーナリズムの信念に基づいて記事を掲載したのです。

これは、フェイクニュースだなんだとトランプ大統領に言われ放題の現在のメディアに対して、「かつてのメディアはこんな気概を持っていたぞ。お前らはどうなんだ?」とハッパをかけているような映画だと思います。

スピルバーグは脚本を読んで「これは今すぐ映画にしなくてはならない」と思ったそうです。実際に、撮影開始から約半年という短期間で映画は完成しました。

正直、急いで作った感が所々あるのは否めませんが、メリル・ストリープやトムハンクスはじめ役者陣の奮闘もあり重厚な社会派ドラマに仕上がっています。この映画自体もまた、プロの気概を感じる仕事だと思います。

6位:『万引き家族


【公式】『万引き家族』大ヒット上映中!/本予告
カンヌでパルムドールを受賞という驚きのニュースから、「万引きを助長している」などという言いがかりのような的外れな批判まで、とにかく話題を集めた是枝裕和監督最新作。

家族を家族たらしめるものは何なのか。それは決して血のつながりというだけではなく、血がつながっていたとしてもそれだけで勝手に家族になるわけではない。そのための努力や、プロセスや、相互理解を経なければ家族になることはない。そういう、是枝監督が今まで描いてきたテーマの集大成ともいえる作品だと思います。

この家族は血はつながっていなくても、今の時代忘れ去られたような家族の絆がある、的に美化する見方もあるのだとは思います。けれど、結局はここに出てくる大人たちは犯罪者であり、いざとなれば自分の利益のために相手を捨てる人たちなのです。それも含めてこの家族はきちんと自分たちのやったことへの報いを受けるわけですね。

ただ問題なのはなぜこういう疑似家族ができてしまうのかということでしょう。「本当の家族」の枠組みから外れたり、そもそも親に捨てられたり、様々な問題を抱える中で居場所がなくなってしまう人はいるでしょう。この映画は独居老人やネグレクト、虐待、ワーキングプアなどいろいろな社会問題を内包しています。

いろいろ欲張った分掘り下げが不十分なところはもちろんあるのだけど、考えるきっかけにするには十分だと思います。物語後半の安藤サクラの演技がとにかくすごくて、ずっとうなってました。

興味あるなし、好き嫌いはもちろんあるでしょうが、2018年に見ておくべき一本だったのは間違いないと思います。

(続く)