無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

忌野清志郎 with Little Screaming Revue

■1999/11/19@Zepp Sapporo
 またかよ、とロックファンを失望させることになった例の事件。ほんとにいやになったがそれによって僕のこのライブに対する期待は逆に膨らんでいった。雑誌のコメントやTVでの振る舞いを見る限りかなり清志郎氏の目つきがギラギラしているのがわかったからだ。また、それ以上に例の「君が代」を収録したアルバム『冬の十字架』が素晴らしいアルバムだったからだ。「君が代」にばかり注目が行ってしまうのは致し方ないかもしれないが、実はこのアルバム、かなり名曲揃いである。とっぱじめから「俺がロックンロール」である。48歳の忌野清志郎がいきなりこう言い放つのだ。痛快である。「君が代」をはさんで「来たれ21世紀」では「俺は自由/48年間/一日たりとも/働いたことはない」とぶちかます。その名も「人間のクズ」はとことん能天気な曲調で「川のほとりで自殺を考えた/でも怖いからやめた/クズクズクズクズ人間のクズ」と来た。最高だ。
 最もあざとく、最も攻撃的で最もセクシーで最もカッコ良かった時の清志郎がここにい。当時と違うのは人生の経験から来る侘しさを感じさせるところか。「こころのボーナス」では「崖っぷちのキヨシ」ときた。自分の置かれた状況に対する認識力の高さも衰えていない。このところいったいどうしちゃったの、と言う感じの活動だったがこれで一安心だ。追い詰められるとこの人の才能はこんなにも爆発するのだ。確かに相当ヘビーなアルバムではあるけれども、それは彼自身の状況がヘビーで、今のこの時代がヘビーだからだ。
 さて、このアルバムを引っさげ、「君が代」騒動の怒りもさめやらぬまま札幌に降り立った清志郎氏はどうだったか。会場はほぼ満杯。最近のアルバムセールスからして悪い予感もあったがこれも君が代効果か。といっても年齢層は異常なほど幅広く僕の前後両隣はRC全盛の80年代にモロ青春時代でしたという30代40代のおばさんが囲んでいた。見渡すとそういった人は多く、ついで僕のような20代後半と思しきロックファン、そしてどう考えても現役でRCなど聞いたことのないだろう20歳前後の若い奴ら、という感じだ。決して君が代のおかげだけでもないらしい。
 客電が落ちると、厳かに「君が代」が流れてきた(笑)。オリンピックとかの表彰式で流れるような、あれだ。客席は拍手の渦。そして颯爽とメンバー登場。1曲目は「俺がロックンロール」で、2曲目は11年前、RC時代に発売中止を食らったアルバム『カバーズ』から原発を歌った「サマータイムブルース」である。当然、歌詞は東海村用に書き替えられていた。ライブは基本的に『冬の十字架』と『カバーズ』をリンクさせるような形で進行する。清志郎は怒っている。彼一流のポーズなのかもしれないが、怒っている。ボーカルが、ステージでの立ち居振舞いが、MCが、目つきが、攻撃的でギラギラしている。いらついている。しかし彼は恐らくそれを楽しんでいる。それを見事にエンターテインメントとして昇華している。何があっても絶対にそこははずさない。観客も期待通りの清志郎に歓声を送る。楽しいライブだ。最近の彼の一つの方向性だったスイートなソウル系の楽曲は全くなし。全編ヘビーなグルーブと硬質なギターリフでゴリゴリと押しまくる構成だった。そこからも彼の本気ぐあいが感じられた。アンコールで登場した一発目はエディ・フロイドの「Knock on Wood」を日本語詞にした「横山ノックのうた」(笑)。これは笑った。ぜひ音源化してほしい。無理かな。「ドカドカうるさいR& Rバンド」「雨上がりの夜空に」というRC時代の名曲もしっかりと押さえ、正味2時間を越えるステージ。s最後の最後に「君が代」を持ってきて盛り上がったまま終わり。良かった。楽しかった。
 インディーズ発売ということもあってか『冬の十字架』のセールスはかなり厳しいようだ。オリコンでも初登場42位という状況である。しかしこれはもっとたくさんの人に届くべきアルバムであると思う。今日のライブから見ても忌野清志郎という人がまだまだ時代との接点を決して失っていないことが十分にわかったし、それが僕には何よりも嬉しかった。(だって「雨上がり〜」がナツメロに聞こえないんだぜ?)しかも頑固なまでに自分のポリシーを貫きロックでありつづけようとするその姿勢には一点の曇りもない。ここに来てかなり本気だ、この人は。
COVERS冬の十字架