無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

VOXXX

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 まず最初に、これは間違いなく現在までの電気グルーヴの最高傑作であると思う。
 昨年春にまりんが脱退し、2人になった電気グルーヴにとって、というか石野卓球にとってこの作品は非常に大きな意味があったはずだ。すでにソロのDJとして世界的に成功を収めている彼にとって、これ以上電気グルーヴを続ける必要があるのか、その意義は何なのか、電気グルーヴとは何なのか。その答えを出さなくてはならないアルバムだったからだ。そして彼らが選んだのは徹底的に無意味な日本語とシュールなギャグの世界だった。これは卓球とピエール瀧の2人になった時点である程度想像はついた。プラスこのアルバムにははじめて石野卓球が正面から自らのセンチメンタリズムに対峙したという大きな意義がある。「シャングリラ」「Nothing's gonna change」に見られるように、彼のセンチな側面が前面に出た曲は非常にポップな可能性を秘めていることがすでに立証されている。本人がどこまで意識的にセンチメンタルに向かっていったかはわからないが、これはまりん脱退とも無関係ではないはずだ。前述の「Nothing's〜」、「愛のクライネメロディー」が並ぶ前半は素晴らしくポップである。そして「スペース・インベーダー」から一気に狂気の世界へ突入し、「エジソン電」で不条理の頂点を極めることになる。本人達は楽しんでやっていたのかもしれないが、ここに収められたテンションは常人のそれではない。ある種感動的ですらある。もうこの無意味な言葉の洪水と音楽の絡みが気持ち良くて、何度もCDをリピートしてしまうのだ。そして石野卓球のミュージシャンとしての決意表明とも言うべき「レアクティオーン」を経てラストに向かうのだが、ラストのナレーションを聞いて不覚にも僕は涙を流してしまった。これはそういうアルバムなのである。ギャグはとりあえず置いといて、それ以上に彼らの本音を聞けたことがこのアルバムの最大の意義だと思う。そして、結果としてピエール瀧がいる限り電気グルーヴは続くであろうことが証明されたアルバムでもある。
 電気グルーヴとはピエール瀧である。石野卓球にとっても、そして僕らにとっても。