無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

The Man Who

The Man Who

 消え入るようなか細い声。沸き立つようなロックのダイナミズムも何もここにはない。あるのは唯一、メロディーに対する確信。この一点においてはそれこそオアシスと通ずるバンドだと思う。
 ボーカルのフランシス・ヒーリィが歌っているのはただ一つのことだけである。要するに他者と(あなたと)つながっていたい、世界との接点を保っていたい、という事だ。そのために彼が取れる手段が音楽であり、それはメロディーに託すしかできないことなのだろう。悲しいが、それしか出来ない人間は少なからずこの世界にいるのだし、その音楽に触れることしか出来ない自分もまたここにいるのだ。
 このアルバムの曲は一緒に歌ってカタルシスが得られるような類のものではないし、聞いて何がしかのエネルギーが自分に生まれてくるものでもない。一人の部屋で孤独な自分を確認するためのものだ。だから多分そう何度もプレイヤーにセットするアルバムではないと思う。けれどもふとした時に無性に聞きたくなってしまう音楽。絶対に無用にならない音楽。そういうものだと思う。