無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

エレファントカシマシ

■2000/05/12@ペニーレーン24
 新作で自分自身を「ロック」そのものと化してしまった宮本にとって、唯一残された問題はその圧倒的な音塊をバンドという形でどのように表現するのか、という事だ。今回のツアー以降のエレカシのライブでは選曲がどうとかそんなことではなく、その一点のみに焦点が集まるといっていい。
 オープニングこそ「so many people(激しいバージョン)」であったものの、前半は東京の空〜キャニオン時代の代表曲が続く。もちろんそのどれもがリズム・シークエンスを用い、現在のエレカシバージョンとして新しく命を与えられている、が、どうもこの前半部分には違和感を覚えた。この素晴らしい楽曲達が、既に宮本浩次という男の圧倒的なテンションを収める器としては小さすぎるという事実を浮き彫りにされてしまったような気がしたのだ。この先こなれていくのだろうという希望的観測もできるが、既に現在の宮本はこの頃の楽曲のスケールを遥かに凌駕していると思う。
 もうひとつは、これが一番気がかりだったのだが、後ろの3人を含むバンドとしてのテンションである。はっきりいって今後のエレカシがこのメンバーで活動を続けていくとするなら、ライブという空間においてその存在感を見出さねば意味がない。それはメンバー自身も、宮本自身もよくわかっていることだと思う。そしてこの前半部分は、残念ながらバンド自身のテンション、グルーヴも完全に乗り切れてはいなかった。手探りのような、そんな感触だった。断っておくが、悪いライブだったのではない。中盤から徐々にその新生エレカシのグルーヴは渦のように会場を飲み込み始めた。一番驚いたのは石くんが久々にギターを弾きまくっていたこと。しかも全編ヘッドバンキングしっぱなし。やはり、レコーディングを通じて最も宮本の近くでその決意を感じた人間として期するものがあったのだろう。彼のステージでの頑張りは特筆ものであったと思う。トミのドラムも、曲を追うごとに激しさを増し、なんとか宮本の頭の中にある音に近づこうとする意識が表れていた。成ちゃんは黙して語らず、というか、忠実に宮本のベースラインをなぞっていた。正直、最も不満だったのは彼のプレイなのだが、この先どうなっていくのか期待したい。
 「ゴッドファーザー」から「武蔵野」をはさんで「good morning」へ。途中変拍子がからむ難曲(迷曲?)を、機械の力を借りながらも彼らはがっしりと演奏した。安定したバックに支えられた宮本のテンションは天井知らずで、怒号のようなボーカルを観客に投げる。本編ラストの「コールアンドレスポンス」はまさに完璧としか言いようのない圧倒的なグルーヴで、まさにレイジかレッチリか。違う。これこそがエレカシなのである。今やライブの定番となった「Soul Rescue」と、これを聞かなきゃ帰れないというまでになった「ガストロンジャー」。この3曲でのエレカシは最強のロック・ユニットである。それを目撃できた、体験できた今日のライブは確かにすさまじいものだった。ただ、それが他の楽曲でも体現できるのかどうか。ライブ全編を通してその圧倒的なテンションとグルーヴを維持できるのか。課題だと思う。今のエレカシだからこそ、宮本だからこそ、ファンとして厳しい意見を言わせてもらう。
 宮本浩次は天才だが、凡人よりも遥かに努力と苦労を重ねた天才なのだ。勝てるはずだ。

■SET LIST
1.so many people(good morningバージョン)
2.悲しみの果て
3.風に吹かれて
4.甘い夢さえ
5.今宵の月のように
6.ゴッドファーザー
7.武蔵野
8.good morning
9.Ladies & Gentlemen
10.コールアンドレスポンス<アンコール1>
11.sweet memory<アンコール2>
12.眠れない夜
13.Soul Rescue<アンコール3>
14.ガストロンジャー