無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

泣き笑いして我がピエロ。

マン・オン・ザ・ムーン デラックス版 [DVD]

マン・オン・ザ・ムーン デラックス版 [DVD]

 35歳の若さでこの世を去った伝説の天才コメディアン、アンディ・カウフマンの伝記映画。とにかく、製作者、出演者、この映画に関わる人間全てのアンディへの愛情が画面から溢れ出ている。もっと言えば観客は関係ない、とにかく彼のためにだけ作ったのではないかとまで思う、それほど愛に満ちた映画。生前のアンディのマネージャーだったジョージ・シャピロ、パートナーだったボブ・ズムダを始め、多くの友人がカメオ出演している。彼の代表作となったTVコメディ「Taxi」の収録シーンでは、実際の共演者達がそのままの役柄で出演している。僕は名前だけしか聞いたことがなかったのだけれども、アンディ・カウフマンという人はそれだけセンセーショナルで、魅力ある人間だったのだろうと思う。
 映画は彼が起こした実際の事件をもとに、彼の苦悩や孤独、愛情、笑いへの情熱を描いていく。演出はそれほど派手ではなく、アンディのキャラクターとそのぶっ飛んだネタの面白さだけでストーリーは勝手に転がっていくという感じだ。風貌から話し方、芸の部分まで完璧にアンディになりきったジム・キャリーの演技は感動的ですらある。この人、はっきり言って今のハリウッドでもトップクラスの役者だと思うんだけど、少なくとも日本では今だにその演技が正当に評価されてないような気がする。この映画での彼はまさに神がかっているとしか言いようがない。後半、死期を悟ったアンディが自らの集大成としてカーネギー・ホールでのショーを目指し、やり遂げるところは本当に感動的だし、何よりネタがおかしくて笑ってしまう。ラストのトニー・クリフマンのショーのシーンと、そこにR.E.M.の「マン・オン・ザ・ムーン」が重なると、もう涙が止まらないのだ。
 アンディにしろ、例えばジョン・ベルーシにしろ、人生そのものをコメディアンとして生き、若くして世を去った人というのは、その人生そのものが悲しみに満ち、ドラマチックなものなのだと改めて思う。人を笑わせる、その裏にある悲しみと苦しみ。その振れ幅が大きいほどその人物の表現の深さはより人を笑わせ、感動させるのだろう。アンディに近い人々が彼への愛情をもって完成させたこの映画は、それを見事に表現している。
 これ以上のものはない、完璧なるオマージュ。カウフマンを知らなくともぜひ見てほしい映画。