無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

ラプンツェル

ラプンツェル

 とかくその歌詞について話題が集まりがちなアーティストだと思うのだが、まず一聴して驚いたのはその楽曲の粒の揃い具合だ。しかもそのほとんどが Cocco自らのペンによるものなわけで、改めて凄い人だと感心することしきり。前作『クムイウタ』から2年の間に、4枚のシングルが世に出たわけだが、そのどれもが素晴らしい楽曲ばかりだったのだ。そのシングルがアルバム中、まんべんなく配置されていながら、決して浮いて聞こえないのだ。なんというバランスの良さ。元の楽曲の出来はもちろん、アレンジ、演奏全て含めた上でのプロデュースの勝利だろう。根岸孝旨は素晴らしい仕事をしている。ここまで高いレベルで統制が取れた作品にはそうそう出会えないのではないかと思う。
 で、歌詞の方は、非常にヘヴィーな内容のものが多い。(もともと彼女はそういうアーティストではあるが)「うたを歌うのはうんこをだすようなもの」と言い切る彼女にとって、このヘヴィーさは前作で得た成功とそれによる期待の大きさを真正面から受け止めた結果であることは想像にかたくない。自らの内面だけと向き合って言葉を紡いできた彼女にとって、いきなり目の前に現れた百万単位の共感はとてつもない重荷であったはずだ。それを乗り越えた上で出てきたこの言葉達は強い説得力を持っている。自らの恋愛体験を基調にした(と思われる)ヘヴィーな歌詞は前作に続いて大きな共感を得るはずだ。
 ハッピーエンドからは程遠いこのラブソングたちから見えるのは絶望ではない。そして希望でもない。限りなくエモーショナルでありながら淡々と切り取られる感情の揺らぎだ。そして、最後にこんな言葉が出てくるのだ。Coccoという人は、我々が思うよりはるかに深く、広く、そしてタフな心を持っていると思う。本当に強い人とは、こういう言葉を歌えるのだ。

指先から
こぼれる愛を集めて
全てあなたにあげましょう
おねむりなさい
このしなやかな腕に
体を横たえ 泣きなさい