無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

Renegades

Renegades

 他のアーティストの曲をカバーするというのは、そのアーティストないし曲に対しての愛があってのことだろうと思う。しかしレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンの場合はそれだけではないようだ。自分たちの主張、メッセージ、政治信念に照らし合わせて、その曲がどれだけ有効な殺傷力を持つ武器となり得るか。それがこのカバーアルバムにおける唯一の選考基準のようだ。それだけ、このアルバムの曲は見事なまでにレイジの「新曲」として機能している。そしてその全てがクソのような日常から飛躍する起爆剤として作用するのだ。ロックンロール。レイジにとって、というかザック・デ・ラ・ロッチャにとって、音楽とは何なのか。マイクを握るということはどういうことなのか。それがこれまでのオリジナルアルバム以上に明確に形になった作品だと思う。
 これを置き土産にしてザックはバンドを去った。実質、レイジというバンドはひとつの終わりを迎えざるを得ないだろう。このアルバムを聞くほどによっく分かるが、トム、ティム、ブラッドの3人は現在のシーンにおける最強のロックアンサンブルトリオのひとつである。しかし、レイジの攻撃性とアティテュードはザックというMCの言葉とシャウトによるところが大きかった。それを失ったバンドは、もうレイジではないのだ。この事実をきっちりと見せてくれたという意味でこれをレイジの最高傑作というのもアリだという気がする。レイジに関してはこの事実上のバンド終結という事件があまりセンチメンタルなものに感じられないのだけど、それもこのバンドの特異性なのかなという感じがする。バンドが終わった。解散した。ということではなく、このメンバーでやることはもう終わった、ミッションコンプリート。という感じなのだ。ザックも、残った3人も次のミッションを遂行するために前進してくれるだろう。今はそれを期待するしかない。
 僕はというとこのアルバムを聞いてジャンプし拳を握り、来るべきライブアルバムに思いを馳せるしかなく。全くもって諦めが悪いのである。