無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

AURORA

AURORA

 素晴らしく綺麗なアルバムだと思う。綺麗だけど、すごく寒い。寒いというのは、文字通り聞いた感触が冷え冷えとしているのだ。タイトルの『AURORA』と言うのは非常に良くこのアルバムを言い表しているのじゃないだろうか。夏、ロッキンジャパンフェスで彼らを見たときにも僕は同じことを思った。目の前に広がるのは荒涼とした大地のような、そんな光景なのだ。アレンジも、ベンジーのギターも凍りつくようで、触ると皮が剥がれてしまいそうな、そんな雰囲気すらある。その中でエモーショナルな美しいメロディーが光る。これが、すごくいい。ほっとする。寒くて、毛布一枚はおってガチガチ震えているところに差し出された一杯のコーヒーのように。彼が優れたメロディーメイカーであることは充分に分かっていたつもりだけど、改めて確認した。ベンジーのボーカルはやっぱり控えめという印象。音楽的にもシャーベッツでは感情の爆発というよりはもっと淡々と日々の生活、風景を切り取っているという感じだ。BJCの時からベンジーはこういう歌を歌いたかったのかもしれない。でもここにあるのはまだSWEET DAYSではない。新しい国ができただけだ。これから畑を耕して、町を作って、豊かにしていこうというところだ。もう旅に出る必要はない。
 「38Special」のような攻撃的なナンバーはこのアルバムにはない。ああいう曲を出す一方でアルバムはこの静かなトーンで統一する。シャーベッツとしてベンジーは今までになく自分のモードを切り分けているようだ。それがどう今後につながっていくのか、期待したい。