無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

ミュージックファイターは刀を置いた。

WARP

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 もともと彼らは仲良しこよしのお友達バンドじゃなかった。メンバー同士の衝突もものともせず、とにかくバンドとして上を目指す、という非常に分かりやすい上昇志向を持っていた。メンバーのエゴとエゴのぶつかり合い、それがもたらす爆発的なパワー。それがJAMを推進させるガソリンだったように思う。だから TAKUYAの才能が一気に恩田を追い越そうとする瞬間のアルバム、『THE POWER SOURCE』が彼らのピークであったのは当然のことなのだ。その後恩田はバンドの音楽的主導権をTAKUYAに渡し、一線から身を引いてしまう。必然的にメンバー間の衝突がなくなりつつあったJAMを何とかしようと、TAKUYAがインタビューなどにおいてケンカすれすれの過激な発言で何とか恩田を鼓舞させようとしていたのはこの頃だ。自分が悪役になっても、とにかくJAMをもっと大きく、もっと前へ転がしていこうとする悪戦苦闘の時期だった。音楽的にもTAKUYAがとにかくアバンギャルドにぶっ飛ばし、何とか新しい化学反応を起こそうと躍起になっていたように思う。そんな難産の末に生まれた『POP LIFE』はやはり当時の彼らの臨界点であり、ある意味でこれが最後だとしても全く不思議ではないアルバムだった。
 そしてこのラストアルバム。復帰後のシングルを散りばめつつ、様々な思いを押し殺すように淡々と進んでいく。無理にアバンギャルドに振り切って、JAMという怪物を揺り起こそうとしていたTAKUYAはここにはいない。ここにあるのは新たな化学反応ではなく、バンドが辿りついた現在地を誠実に鳴らそうとする意志だ。全編にJAMというバンドに対するTAKUYAの愛と感謝の気持ちがあふれている。そしてそれは他のメンバーの気持ちも同じで、淡々とした思いは徐々に高まっていき、ラストの「ひとつだけ」で爆発する。感動的だ。個人的にはこれが彼らの最高傑作だとは思わない。でもラストアルバムとしては出来過ぎなくらいふさわしいと思う。去年からいくつもバンドの解散やら活動休止を見てきたけど、これほど自分たちの最後をきれいに演出したバンドはいなかった。プロフェッショナル、である。JAMを最も愛していたのは他ならぬこの4人だったのだろう。だからこそここまでファンに愛されたのだと思う。