無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

天体観測

天体観測

天体観測

 たとえば、「ランプ」でも「K」でも「グングニル」でも何でもいいんだけど、バンプのアップテンポな曲を口に出して歌うと、これはもう間違いなく酸欠状態になる。ブレスをすることを許さない圧倒的な言葉の勢いがそこにある。フレーズのラスト、いよいよ息がなくなったときにいきなり音程が上がってクレッシェンド。こんなの歌えない。で、結果どうなるかと言うとその曲に詰め込められたロマン溢れるドラマの情報量はとてつもないものとなる。まるで短編小説が4分間に凝縮されたような密度になる。主人公たちは4分間のドラマの中で切実に生き、悩み、ともすれば死に、そして見つけるのである。
 藤原基央の書く詩には基本的に未来はない。それは、何かを失った過去、それを引きずった現在で手一杯で、明日のことなど考える余裕がないということだ。明日は明日で、今日の自分を引きずって悩むのだろう。未来とは結局その連続に他ならない。自分が何を無くしても、何を見つけても、それは明日の自分になる。その時に、自分を見つめるその時に、そばにいてくれる歌。バンプは今までそういうものしか世の中に出してきていない。この新曲もそうだ。
 バンプ・オブ・チキンの鳴らすロックには青臭く、美しいロマンがある。今のヒットチャートに足りないものが全部ここにある。個人的に言わせてもらえば月9の主題歌になったって何の不思議もない。というか、それくらい期待したくなる。