無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

ありがとう、Cocco

サングローズ

サングローズ

 素晴らしいアルバム。一聴して、ずいぶん穏やかな作品だと思った。もちろん、激情渦巻く曲もあるのだが、基本的なトーンとしては前作のラスト「しなやかな腕の祈り」に近いものがあるような気がした。母なる海のような包容力と、子供のような無邪気さ。このアルバムでのCoccoはいつにまして素直に自分をさらけ出しているような気がする。根岸孝旨によるサウンドプロダクションは相変わらず完璧だが、前作に比べてかなり音に隙間があり、息苦しさのようなものはない。すごく開放感に溢れた作品だ。
 「珊瑚と花と」「風化風葬」の他にも、このアルバムの多くの曲は沖縄がテーマになっている。恋人、友人、家族、それと同じか、もしくはそれ以上と言ってもいいほどのその土地への想い。恋慕とも言えるその強烈な感情を前にすると、彼女がこの先沖縄に向かうのかどうかはわからないが、このアルバムを最後にした意味がなんとなく掴めるような気がする。
 勝手な事を言わせてもらえば、彼女のような圧倒的な才能を持つ人が歌うことを止めてしまうというのは残念という気持ちを通り越して脱力感すら感じる。それに、彼女の中に歌うべき理由がなくなったとはどうしても思えない。どんな形でもいいから、どれだけでも待つから、また出てきてほしいと思う。
 つまらない、無意味な曲などただの一つもなかった。最後の笑顔、ピースサイン、投げキッス―、全てが目に「焼き付いて」離れない。