無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

21世紀の精神異常者。

Lateralus

Lateralus

 変幻自在で、フリーランスでありながら実は細部まで緻密に計算された曲構成。そしてそれを実現する圧倒的な各メンバーの技量。確かにビートは激しく重いが、へヴィ・ロックと言うより、これはもうプログレと言った方がいいのじゃないか。実際、"The Grudge"を最初に聞いた時に僕の頭に浮かんだのはキングクリムゾンの1枚目だった。
 「否定という名の冠を戴くが如く、悪意に身を染めよ」("The Grudge")「我を包む肉体は永遠。苦痛は幻想である」("Parabola")−暗黒サウンドに乗るのは、世界に流されることに対して強烈にアンチとNOを叩きつける、これまた暗黒な呪詛のような言葉だ。それは難解で、哲学的であり、そして怒りに満ちている。それは虐げられし者の怒りだ。「狂っているのは俺達ではない、世界の方だ」という絶対的な確信。決して衝動ではなく、冷静に計算ずくでその確信を鳴らそうという意思、がこの音の中にはある。踊れもしない、口ずさめもしない、が、直接心臓に電気ショック喰らわすかのようなdB(デシベル)の高い肉体性がこの音にはある。久々に背筋を伸ばして正座して対峙しなくてはならないような、高い精神性がある。それが結果としてエンターテインメントになり得るというロックのマジックもここにある。「プログレ」という言葉が僕の頭に浮かんだのもあながち冗談ではないと思う。
 現在のシーンの中であまりに異彩を放つ、最も凶暴な知性。敵に回すと一番怖いのは、こういう人たちなのじゃないだろうか。