無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

BECK

BECK(5) (KCデラックス 月刊少年マガジン)

BECK(5) (KCデラックス 月刊少年マガジン)

 何のとりえもない主人公、コユキがアメリカ帰りのギタリスト竜介と出会い、自らもギターを始め、ともにバンドを結成し…という、プロットだけ書けばありがちな青春モノと思いそうだが実はこれは違う。
 荒木飛呂彦うすた京介などの例もあるように、最近はその音楽的嗜好をモロに紙面に投影する漫画家も多い。この作者も間違いなくその一人だ。BECKなんつうバンド名もいかにもだし、コユキが後ろに腕を組んでボーカルを取るスタイルはまんまリアム・ギャラガーだし。そして基本的にこのマンガで描かれるロックにはアメリカインディーロックの匂いがする。作中、伝説的と言われているダイイング・ブリードというバンドはなんとなくニルヴァーナっぽくもありパールジャムっぽくもあり。もっと言えばソニックユースの香りも少し。扉絵や、作品中の様々なディテールに至るまでロックファンならニヤリとする仕掛けがぎっしりで、この作者、かなりコアでマニアックなリスナーと見た。で、そういう人が書いているのだからギターで青春イェイ的なものになるはずがない。とりあえずそれなりに順調に活動を続けるバンドと、コユキの成長がベースになるわけだけど、その後ろには微かに暗い影が常についている。描き方としてはギャグマンガのそれなわけだけども、それがまたその影をいっそう際立たせている。それが妙にリアルなのである。青臭さと、ハッピーな青春と、挫折と絶望、死の匂い。そういうものをここまできっちり描いたロックマンガってありそうで実はそうそうないんじゃないのかな。
 ロックなんてロクでもないものだという意識を忘れなければこのマンガ、まだまだテンション上げ続けるだろう。すごく楽しみ。