無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

素材の勝利。

アンチェイン [DVD]

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 6敗1分け。たった一度も勝てずに引退し、精神病院行きとなったボクサーと、同じく格闘技に生きる彼の周りの3人の男達の運命を追ったドキュメンタリーフィルム。撮影時に梶が入院中だったために、梶という人間を他の人間が語るインタビューシーン、彼らの試合シーンで構成されている。そこで語られるエピソードがホントかよってものばかり。ガルーダのセコンドで梶が大暴れする映像は爆笑ものだが、いたたまれない気分にもなってしまう。なぜなら本物だからだ。完璧にイッてしまっているのだ。胸が痛くなってしまう。 しかし、梶のことを語る彼らの表情はみな生き生きとしていて明るい。それが感動的だ。
 「自分にとってボクシングとは最初に夢があって、可能性が見えてきて、最後現実になった」というのは劇中の永石の言葉だ。主役の4人はみな敗北者である。夢を追いつつもそれを適えることのできなかった者である。しかしそれは彼らだけではない。世の中の多くの人間が夢を追いつつも現実の中でもがいているのである。その中で「心の鎖を解き放ち」生きている彼らの姿は心を打つ。
 映画の最後では、退院した梶が数年ぶりに他の3人と会うのだが、他人の書いた脚本にはない生々しいドラマがそこにあった。名作ではないかもしれないが、強烈な印象を残す映画。