無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

コインの表と裏

Amnesiac

Amnesiac

 『KID A』より生音が多いというのは確かにそうだけども、だからと言って以前のようなサウンドに戻ったわけでは決してない。むしろ『KID A』より混沌としたアルバムだとも思う。同じ時期に同じ場所でレコーディングされたと言う作品群。「モーニング・ベル」が全く違うアレンジで両方に入っているという事実。これら2枚のアルバムを聞いていると合わせ鏡の謎解きでもしているような気分になる。
 このアルバムの後に『KID A』を聞くと、驚くほど新たな発見がある。あの電子音がなぜこんなにも優しいのかがわかったような気がする。このアルバムが「EVERYTHING IN ITS RIGHT PLACE」のイントロ、あの衝撃を鳴らすための壮大な思考錯誤のようにも思える。皮肉でもなんでもなく、ネガティブな意味でもなく、これは「メイキング・オブ・KID A」と言っていいアルバムだと思う。逆に言えば、それほどエモーショナルで、すごいアルバムだということ。
 アホみたいな暴論を言わせてもらえば、レディオヘッドは「サージェントペパーズ」と「ペット・サウンズ」を自分らで作ってしまったわけである。あまりにも不器用で、ストレートなやり方で。彼らはどこまでもロックである。彼らの立っている場所こそがロックの国境なのだと言う気がする。