無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

桑田佳祐の真髄。

ROCK AND ROLL HERO

ROCK AND ROLL HERO

 桑田佳祐のソロと言うのは前回のソロ活動時、セカンド『孤独の太陽』でも顕著なようにサザンの陽性ポップとは一線を画した、非常に内省的で暗く重いテーマを歌うものが多かった。古今東西ビッグバンドのフロントマンのソロというのはバンドのイメージから離れて、一個人、いちアーティストとしての生身の勝負をするものとバンドのイメージそのままになってしまうものの大きく二つに分けられると言えると思う。桑田佳祐の場合は前者だった。しかし昨年「波乗りジョニー」、「白い恋人達」が出たときは、そうした今までの流れとは違う感じで行くのかな、と思ったのだけど、シングル「東京」、そしてこのアルバムで描かれた世界は過去のソロ作品と同じように生身の桑田佳祐がゴロンと横たわっているようなものになった。サウンドは斎藤誠小田原豊など腕利きを集めたバンドを従え、基本的にほとんど機械を使わないストレートなロックンロールが基本になっている。その中にジョン・レノンだったり、服部良一だったり、歌謡ブルースだったり、リトル・フィートだったり、このアルバムには桑田佳祐という人の音楽的なルーツが詰まりまくっている。
 コカコーラのCMで聞く分にはノリのよいアッパーなロックンロールだと思っていたタイトル曲は、実は日本の現状と行く末を辛辣な言葉で憂いたヘヴィーな内容だったりする。男の欲望満開なエロナンバーもあれば、切ないバラードもある。「波乗りジョニー」を期待した人は、「どん底のブルーズ」などというドロドロのアコースティックブルースを聞いて面食らうことだろう。しかしこれが桑田佳祐という人なのだという他ない。常に第一線で日本のロックとポップを広げ、繋げてきた巨大な才能の中にはこんなにも暗く深い闇がある。これはもう、そういうものなんだと思わざるを得ない。それを今なおこれだけのスケールとテンションとクオリティでシーンに投下し続けるのだから、ホントすごい人だと思う。