無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

幸福な出会い。

創 (CCCD)

創 (CCCD)

 サウンド、というか曲調の幅が非常に広い。パンク直系のハードコアな曲もあればギターポップな曲もあるし、スペイシーな広がりを持つサイケな曲もあれば、もろエモ、みたいな曲もある。そういう意味ではひとことでその魅力をくくれないバンド。例えば、デビュー当時のリトル・クリーチャーズがそうだったのだけど、音楽的な引出しが多いバンドというのは得てして器用貧乏というか、頭でっかちになる傾向があると思う。マニアックなリスナーの知的好奇心を刺激はしてもなかなかそこから先に進めない、というような(それはそれで僕は好きなのだけど)。
 ところがACIDMANは違う。どんな曲をやってもそれが本業だといわんばかりの説得力と、何よりロックンロールのダイナミズムがどの曲にもあふれている。確かなテクニックに裏づけられたグルーヴはポップだろうがサイケだろうがパンクだろうが全てをACIDMANの世界に塗り替える。すごい実力を持った本格派のバンドだと思う。特にベースはすごい。8分でも4分でも3連符でも完璧に曲の基盤を支配している。そしてギターも、ドラムも、ものすごくカッコイイ。あまり関係ないけれど、ジャケットもすごく綺麗でいいと思う。Central67って、スーパーカーとかも手がけている人たちだけど、どれもこれもいいジャケットばかりだと思う。
 今この世界で生きていることの違和感からスタートしている歌詞は、決して絶望や失望に帰結することなく、ささやかでも明るい希望を見つめている。拳を振り上げて一体感を得るようなものではなく、もっと内面で自問自答するような静かで力強い光に満ちている。「アレグロ」→「赤橙」の流れは泣ける。
 去年のこの時期、僕ははじめてシロップ16gを聴いた。そして1年後、ACIDMANに出会った。そんな風に勝手に運命的なものを感じるバンドがここ最近増えている。その分いろんなものを幅広く聞くことが少なくなっている気がするけれど、悪いことではないんだろう。と思っている。