無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

汚れちまった悲しみに。

Up the Bracket

Up the Bracket

 とにかくこの、薄っぺらくてスッカスカなロックンロールを聞いているとたとえようもなく興奮して、気持ちが昂ぶって、そして涙が溢れてくる。これはもう条件反射と言うべきものだろう。洋邦問わずそうした音楽というのは何年かに一度僕の前に現れる。
 ロンドンから現れた4人組。フロントマンの二人(ピーター&カール)が全て曲を書いている。ささくれ立った苛立ちと不満をそのまま落としこんだビートはとにかく性急で、当時の彼らの生活そのまま(らしい)歌詞は、行き場のない衝動と欲望を爆発させる。その全てがいちいち突き刺さる。彼らにとっては、ロンドンの底辺から這い上がり、生き残るためにはロックンロールしかなかったのだろう。そんなリアリティが全編、どの言葉、どの音からも匂って来る。
 ミック・ジョーンズがプロデュースしていることからも、クラッシュの名前がよく出てくるけども、ギターのフレージングにはスミスの匂いが感じ取れたりもする。こちらの琴線を見透かしたかのようにツボを押してくるメロディーセンスにはもう抗う術はない。オリジナル・ロンドン・パンクだけでなく、ある意味UK の正統ギターバンドの系譜に沿ったバンドともいえるだろう。でもまあ、そんな解釈などどうでもいい。ここには間違いなく今の若者のためのロックンロールがある。このボロ雑巾のような音が僕にはとても輝かしい希望に聞える。裏通りのゴミ溜めからダイヤモンドを産み出すこと。そう、ロックンロールの奇跡がここにも確かに存在している。