無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

大いなる成長。

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 どこにもぶつけようのない怒りと悲しみを抱え、それを発散させる方法を見つけられないままアクセルを踏み続けて疾走するバンド。今までのキングブラザーズがそういうバンドだったとしたら、今作での彼らは大きく変わったといえる。「明日を超えてかけぬけろ」「この世界を越えていこうぜ」という前向きな言葉が CDを再生した途端耳に入ってくるのだ。音楽的にも、ピアノやホーンを導入し、アレンジの幅が各段に広がった。曲自体もメロディーの輪郭がよりはっきリし、一言で言えば非常にキャッチーで高性能なロックンロールとなっている。
 ただ、別に彼らの中から怒りや苛立ちが消えたというわけではない。それを抱えたまま孤独にうずくまっていても何も変わりはしないということだ。退屈に呑み込まれる前にそこから全速力で抜け出せばいのだ。世界を変えるのではなくてテメェが変われ。そういうことを明確な意思を持って彼らは鳴らし始めた。そして自分たちの音楽をよりストレートに伝えるために音楽的に何が足りないのか、を考え、それを実践したということだろう。間違いなくこれまでの最高傑作であり、これから先も楽しみになる素晴らしいアルバム。エレファントカシマシでいうと『東京の空』みたいなアルバムだ。バンドの成長がここまではっきりと見える瞬間に出会えることってそんなにないと思う。ライブが見たいなあ。札幌来てくれよ。