無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

自由の意味。

Nipsong

Nipsong

 前作『MICROMAXIMUM』が発表されたのは実に3年半以上前。2000年問題などというものが話題になっていた20世紀末の話だ。その間、公式に発表された音源はマキシ「2254 UNIVERSAL EP」とリミックスアルバム『REFIXX』のみ。ライブを見るたびに新作への思いは募るばかりだったが、ようやく届いたわけだ。
 音楽における自由、というのはどういうものか。例えば、西洋音楽のルールにのっとる限り、基本的には五線譜に表せる以外の音というのは存在しないわけだ。ギターなどの場合運指によって中間音も出せるけど、コードを鳴らし、他の楽器とのアンサンブルということになれば正確な音を出さねばならない。これは、ひとつの「制約」である。そこから全く自由になって、現代音楽のような方向に進んでもそれは芸術としてはどうかわからないが、大衆文化としてのロック/ポップミュージックの範疇からは外れてしまう。そうした「制約」の中で、ロックが自由な発想を持つというのはどういうことか。バック・ドロップ・ボムはその命題にひとつの回答をもたらしてくれる稀有なバンドであると思う。
 曲のスタート地点とゴールが全く違う地平に着地していたり、1曲の中で複数のアイディアが入れ替わり立ち替わり現れたり、生のバンドでありながら彼らの発想はきわめてヒップホップ/サンプリング的だ。コード進行やメロディー、リズム構成はどこか日本の伝統音楽的な匂いも感じられ(おそらく『NIP SONG』というタイトルにもつながっているだろう)、洋の東西問わずオリジナルなサウンドを構築している。本当の意味のミクスチャーというのは出てくる音楽そのものではなく、その大元となる自由な発想に対して使われるべきだろう。そしてその自由さというのは、「制約」があるからこそより際立つものだと思う。今作は全体にかなり実験的な部分も多く、彼らのチャレンジ精神がいまだどこかに安定することなく、試行錯誤を繰り返していることが窺える。唯一残念なのはメロディーの完成度が前作に比べ見劣りするところ。