無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

タランティーノの真骨頂。

キル・ビル Vol.1 [DVD]

キル・ビル Vol.1 [DVD]

 『ジャッキー・ブラウン』以来約6年ぶりのタランティーノ監督作。上映時間が長くなったために前後編2作に分割されることになった大作。ユマ・サーマン演じる殺し屋ザ・ブライドは、子供ができたことを機に結婚し、組織を抜けることを決意する。が、組織のボスや仲間のリンチをくらい、夫、おなかの中の子供、結婚式に出席した友人など、皆殺しの目に会う。自らも頭に銃弾を食らったが奇跡的に生還。全てを失った彼女は組織のボス、ビルを殺し、復讐することを誓う。プロットとしては単純なのだが、そのアクション、暴力描写に対する執拗なまでのこだわりはまさにタランティーノの面目躍如。日本の時代劇の殺陣、ヤクザ映画の立ち回り、カンフーアクション、西部劇、様々な手法をミックスして描かれるアクションシーンの無国籍さは映画オタク・タランティーノの独壇場と言えるだろう。そして、ザ・ブライドの復讐劇は、映画の中では時間軸に沿って描かれているのではない。巧みな時間操作によって過去と現在を自由自在に行き来する手法もまた、かつてタランティーノが『レザボア・ドッグス』や『パルプ・フィクション』で見事に見せてくれたものだ。タランティーノももうダメか、などという外野の声を木っ端微塵に打ち砕く痛快極まりない映画だ。
 前編にあたる本作では、ザ・ブライドの復活とルーシー・リュー演じるオーレン・イシイとの対決シーンに大きく時間が割かれる。オーレンが組織に入るまでの生い立ちは日本のプロダクション製作したアニメで描かれるが、これが結構秀逸。タランティーノ、ジャパニーズアニメも好きなんだろうな。ザ・ブライドとオーレンの部下達数十人との大立ち回りでは腕や足や頭がぼんぼん飛び跳ねる。残虐な描写ではあるが、ここまでやってくれるともう笑ってしまうしかない。ザ・ブライドのために日本刀を作るのはもちろん千葉真一。脚本、キャスト、演出からアクション、全てにおいて監督の頭の中にあるものを凝縮した、ザッツ・タランティーノ・ワールド。個人的には最高としか言いようがない。早く後編が見たい。
 本作は特に、日本のヤクザ映画に対するオマージュが多く挿入されている。なんたって主題歌が梶芽衣子だし(実際、これが流れてくると爆笑モノ)、照明の色使いや構図など、鈴木清順を髣髴させる部分もある。そして何より、冒頭のテロップで本作は深作欣二に捧げられているのだ。タランティーノの本作への思いは伊達や酔狂ではない。思わず笑ってしまうようなシーンも、彼の映画を愛する心がなせる技なのだ。