無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

キャシャーンがやらねば誰がやる。

CASSHERN [DVD]

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 気鋭のクリエイター、紀里谷和明氏監督による『新造人間キャシャーン』の実写映画化。とはいえ、往年の懐かしいアニメの世界観とはまた別個の、独立した内容として描かれている。細かいディテールの設定などでアニメのテイストを随所にちりばめているものの、いわゆるスーパーヒーローものと思って見るとエライ目に会う類の作品だ。
 物語の舞台は現在の世界とは全く違う歴史を辿ったという設定の近未来。旧日本軍がそのまま世界を支配した、と言う感じの大亜細亜連邦共和国という国がユーラシア大陸全土を支配している。更なる領土拡大と各地のレジスタンスによるテロ鎮圧のため、争いが絶えない世界。そんな中、妻の病気を治すため人体のパーツを作り出す「新造細胞」の研究に没頭する東博士が偶然にも生み出してしまった「新造人間」が人類への反旗を翻す―。めちゃくちゃ大雑把に言うとこういう感じ。「キャシャーン」の誕生のプロセスや、彼の抱える苦悩。そして同じく敵役であるブライキングボス(アニメとは違い、彼もまた新造人間であるという設定)のキャラクターにもかなり奥深さが与えられている。こうした手法はハリウッドでアメコミものを映画化する際に用いられるものだが、日本のヒーローものの実写版ではこれまでほとんど見られなかったものだ。これはこれでいいと思う。が、しかしキャシャーン(東鉄也)がどうにも脆弱すぎるような気がしてしまうのは僕だけか。端的に言って、アクション的に主人公がカッコよく活躍する場面が少ない。負けてばっかりみたいな印象。特にラストの方ではもう少しヒーロー然とした佇まいがあってもよさそうな感じだけど。
 根底に流れるテーマは「人はなぜ争い続けるのか/暴力の連鎖を断つことができないのか」という、まさに9.11以降の世界に対するものであり、原作とは異なる設定を与え、現代にマッチする内容とした監督の意図は非常によくわかるものではある。しかし如何せん描き方に親切さが欠ける。台詞にも映像にも、いかにもアート出身の監督が作ったような抽象的な表現が多いのだ。全てを説明する必要はないと思うが、少なくとも見ている側にストレスを感じさせない程度に理解できるような配慮がほしかった。わかり易くする事をよしとしないかのような芸術家的スノッブささえ感じてしまう(僕だけが頭悪くて理解できないというレベルのものではないと思う)。その割に、作品のテーマに直接関わる部分になると途端に説明的になるという。もちろん、自らのアーティストとしてのエゴなり作家性というものはあるだろうが、商業作品として作品を発表する以上、大衆性とのバランスというものを考慮して落としどころを与えていくべきじゃないだろうか。宇多田ヒカルの旦那ならそんなこと言われなくても横で見ててイヤというほどわかっていそうなものだと思うのだが。
 映像の完成度は、さすが、これまでの邦画のCGアクションを概念を塗り替えるほどのすさまじさ。だけど、作品としては上記のような不満が残る。もっとバランス感覚の取れる人に監督をやらせて、特殊効果/CGディレクターとして紀里谷氏が関わればまとまった映画になったかもしれない。とあるレビューで、「エヴァンゲリオン」からの影響を指摘する意見があったのだけれど、言われてみればなんとなく納得。監督のインタビューなどを見ると、すごく熱血漢なのね。嫌いなタイプではないんだけれど、だからこそこういう映画になってしまうのかな。この映像のクオリティが次作ではもう少し万人向けに開かれることを期待します。