無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

ロック金八先生。

スクール・オブ・ロック スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]

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 主人公のデューイは自分が作ったアマチュアバンドをクビになり、職も無く友人の部屋に居候しているしがないミュージシャン。彼は友人にかかってきた非常勤講師の依頼を友人になりすましてまんまと引き受け、受け持ったクラスの子供たちに楽器を教え、バンドを結成しオーディションを目指す…という、なんとも荒唐無稽なストーリーである。が、はっきり言ってこういう映画にリアリティは必要ない。これはロックをベースにしたミュージカルであり、ロックへの夢を諦めてしまった者/まだ夢を持っている者に対するおとぎ話、ファンタジーなのだ。そうやってみればご都合主義の展開もベタなクライマックスも全て許せてしまう。
 許せてしまうのは主演のジャック・ブラックの快演(怪演?)も要因の一つ。『ハイ・フィデリティ』などでも強烈に印象に残るキャラクターを見せた彼だが、この役はそもそも脚本が彼を想定して書かれたというだけあってまさにハマリ役。デューイはとにかくテンションが高く自己中心的で他人の気持ちを思いやらない男だが、ジャックが演じることでなんとも憎めないキャラクターになっている。この有り得ないストーリーが一級のコメディとして輝いているのはジャックの力だろう。バンドを組む子供たちは「楽器ができること」を条件にオーディションしたそうだ。ジャック自身も役者業と平行してテネイシャスDというバンドで活動しているプロのミュージシャンだけあって彼らが本当に演奏しているステージシーンは迫力充分。
 そして、何よりも作り手の愛を感じさせるのが全編を貫く70年代ロックへのオマージュの嵐。劇中でデューイがギタリストのザックに教えるフレーズはブラック・サバスの「アイアン・マン」にパープルの「スモーク・オン・ザ・ウォーター」、AC/DCの「ハイウェイ・トゥ・ヘル」だ。そして宿題と称してロックの名盤を子供たちに聞いて来いと手渡すのだが、キーボードの子にはイエスの『こわれもの』、ギターにはジミヘンの『ボールド・アズ・ラヴ』である。素晴らしくソウルフルな声で度肝を抜いたコーラス担当にはピンク・フロイドの『狂気』を渡し「「虚空のスキャット」を聞け」と来た。もう最高である。ピンと来た人は絶対にこの映画楽しめると思う。デューイのステージ衣装は半ズボンの小学生ルック。これも、AC/DCのアンガス・ヤングをモチーフにしたものだ。そしてポスターなどのタイトルロゴは「ローリングストーン」誌のロゴをもじったものになっている。ここまでやってくれれば言うことはない。あ、あとお堅い校長が実はスティービー・ニックス大好きだったというくだりも個人的にはヒット。この校長を演じたのは『ハイ・フィデリティ』で主演したジョン・キューザックのお姉さんであるジョーン・キューザック。年のわりに(失礼)とてもかわいいコメディエンヌ。
 笑えるし、楽しいし、ちょっといい話だし、何より夢がある。ロックが持つロマンをわかっている人達が創った映画だという気がする。