無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

THIS IS MUSIC。

Welcome To The North

Welcome To The North

 プロデューサーにブレンダン・オブライエンを迎え、アメリカでレコーディングされたザ・ミュージックのセカンド。前作でいきなりオリジナルとしか言えないグルーヴ感溢れるロックンロールを聞かせてくれた彼らだが、そのウネウネとした独自のサウンドテクスチャーはとてつもなく高いテンションとグルーヴの最大瞬間風速で成り立っているものが多かったため、ともすれば統制が取れなくなってしまうのではないかという危険も孕んでいた。しかし、そこは彼ら自身の成長と、何よりもオブライエンによる的確なディレクションによって非常に整理されたものになっている。それでいてサウンドの輪郭はひと回りもふた回りも大きくなったような印象を受ける。
 前作のアルバムジャケットにあるグルグルの同心円はまさに彼らのサウンドを象徴しているものだったが、今作ではそれは2次元の円ではなく3次元の立体感を感じさせる奥行きのあるものになったと思う。楽曲の雰囲気もかなり変わった。リフ主体のグルーヴで押す曲だけではなく歌モノとしてのメロディーが立つ曲が増えた。歌詞の内容も非常にストレートに彼らの世代感や今の世の中に対する感情を表現したものが多く、前作以上のポピュラリティを得るポテンシャルを持っているのではないだろうか。この辺の変化は個々のメンバーのスキルアップもあるだろうが、世界中をツアーで回った経験も大きく関係しているだろう。なんと言っても彼らはまだ(これでも)22〜23才程度の若者たちなのだ。成長過程どころか音楽的にも人間的にも最も多くのものを吸収できる時だろう。その過程において出てきたのがこのセカンド。これはゴールではなく、彼らの野望の通過点なのだ。前作からこのセカンドまでの変化を見れば、次にどこまで進化しているのか想像もつかない。
 優れた美しい音楽というのは生物みたいなもので、それを構成する要素がすべて有機的に「すべてがあるべきところにある」ようにつながっているものだと思う。4つの楽器が有機的に絡み合い、生命力溢れるグルーヴを生み出す彼らの音楽はまさに、である。「ザ・ミュージック」というバンド名がハッタリでもなんでもなくなりつつあることに驚愕し、畏怖するしかない。ライヴがどうなっているのか楽しみ。あと、日本盤のボーナストラックは要らない。繰り返し聞いた時に「オープン・ユア・アイズ」で終わって1曲目に戻った方がいい。