第1期シロップの墓標。
- アーティスト: Syrup 16g,五十嵐隆
- 出版社/メーカー: UK.PROJECT
- 発売日: 2004/09/22
- メディア: CD
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『COPY』が出たのが3年前、2001年の秋なので、本作を入れると3年間で6枚のアルバムを出してきたことになる。多けりゃいいってものではないが、その6枚のアルバムがどれだけ中身の濃い素晴らしいものだったかを考えればこの3年間のシロップがどれだけ異常なペースで走ってきたかがわかるだろう。まるで何かに突き動かされるかのように曲を作り、リリースしてきたのだ。
本作のレコーディングは2週間程度で終わったらしいが、確かに演奏そのものからは細かい緻密さは排除され、ライヴ的な一発録りに近い感覚が伺える。しかしそれはそもそもの曲がそういう要素を多く孕んでいることもあるだろう。ここにある初期の曲は五十嵐隆というミュージシャンの反射的な本能に近い部分で生み出されたものであり、それを最も曲の姿に忠実に再現しようとするとこのように瞬発力勝負のような演奏になったということなのじゃないかと思う。思うに、シロップというバンドはあまりサウンド的に凝ったものを作ろうとかいう意識はあまり無いのじゃないか。曲を書き終わった時点で半分以上作業は終わっていて、それをどうレコーディングするかということにはそれほど頓着していないように思う。そうでなければ本作とか『HELL SEE』のようなアルバムはできないと思う。そしてシロップのすごいところはそうして無頓着にやさぐれたギターや声で掻き鳴らされた演奏がとてつもなく音楽的で、曲の本来持っている力を余すところなく引き出している点だ。他のバンドからすればうらやましいことこの上ないだろう。
ここにある初期の楽曲群は、恐らく五十嵐が一人の部屋で黙々と作ったものだろう。どこにも行けないし、どこにも行こうとしていない迷える魂が閉塞した空間に沈殿しているかのような曲ばかりだ。それを無理矢理光の下に引きずり出したような力技のアルバム。スロウな曲はどこまでも痛く、激しい曲の疾走感はカミソリのように傷口を舐める。最後まで聞くといつしかそれも麻痺してくる。徹頭徹尾シロップらしいアルバムと言ってもいいかもしれない。第1期シロップの墓標としてこれ以上のものはないだろう。