無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

奥田民生・ひとり股旅スペシャル(1)

奥田民生 ひとり股旅スペシャル@広島市民球場
■2004/10/30@広島市民球場
 開場時間に間に合うためには朝7:50発の便に乗り、羽田で飛行機を乗り継ぎ広島入りせねばならなかった。それでも広島市内に着いたのはちょうどお昼頃。さすがに遠い。広島風お好み焼きで腹ごしらえをしたあと市民球場に行くとすでに球場の周りは人でごった返している。はじめて広島市民球場に来たのだけど、本当に街のど真ん中にあり、確かにこりゃあロックのライヴなどできるはずがないと思った。それだけに今日を迎えた民生本人や広島ファン広島市民は感慨深い思いがあることだろう。球場の正面入り口には大きな看板があり異様な雰囲気を醸している。グッズ売り場やら屋台やらが乱立する様はさながらプチフェスの様相だ。グッズには広島カープと民生のコラボレーションデザインのものもあり、背番号812のレプリカユニフォームに身を包んだ人もかなり多い。
 まずはグッズをひと通り買った後、開場までまだ時間があったので球場から歩いてすぐ(ていうか道一本隔てただけ)の原爆ドームに行ってみた。一体どうすれば鉄筋コンクリートでできた建物がこうなってしまうのかという異様な残骸に恐怖や怒り、やりきれなさを憶え、気がついたら手を合わせていた。こういうものが普通に街の中にあるというのもすごいことだと思う。
 球場に戻るとどうも開場し入場が始まったらしい。が、外野自由席の入場の列はものすごいことになっていて、球場横の川沿いを数百メートルほど並ばなくてはいけなかった。それでも割りとすぐに入れたけど。焦らずともこのタイミングで球場に入れば席はいくらでもある。セカンドベース付近に四角形のステージがあり、その上にモニターや楽譜立て、ギターなどが並んでいる。正直どの席でもステージが小さいのは変わらないので、バックスクリーン近くのほぼ真ん中くらいの席に座った。民生弁当とビールをいただきながらぼおっと開演を待つ。いい天気だ。僕は全然チェックしていなかったのだけど、どうもこの日はほぼ間違いなく雨が降るような予報だったらしい。ふたを開けてみればこの快晴。しかも暑い。最高で24〜25℃位あったのじゃないだろうか。札幌からフリース着て行ったのだけどとてもじゃないが暑くてTシャツ1枚になった。ありえないこの気温差。
 会場内にはこの「ひとり股旅スペシャル」を祝う様々なミュージシャンのメッセージが流れていたり、バックスクリーンには地元テレビ局の番組に民生がゲスト出演した際の映像をはじめ、この日に至る民生とスタッフの動きをドキュメンタリータッチで描いたフィルムが流れていた(映画に使われるのかな)。その他、山本浩二監督や赤ゴジラ・嶋などからのお祝いのメッセージが流れるなど、とにかくこのステージがカープの全面協力の下に行われているのかがわかるのだ。民生のみならず、あの場にいた広島ファンはそれだけでグッと来たのではないだろうか。しかし冷静に見るといくら小さいとはいえ野球場である。広い。ステージがちんまりしているので余計に広く感じる。そして開演が近づくにつれどんどん客席が埋まっていく。正直、カープの試合でもこんなに入ることあるのだろうかと思うほどだ。外野自由席も徐々に席がなくなりつつあり、荷物をひざに乗せてできるだけ詰めるようにというお達しが出た。途中何度か広島カープの応援歌に乗せ、ジェット風船を飛ばすタイミングの練習を行うなど、気分はどんどん盛り上がる。陽が傾きはじめ、球場が広島カープの赤に染まる。そろそろ開演の時間だ。
 バックスクリーンの本来ならチーム名が表示される所に「奥田」「民生」と表示される。そして選手の名前の替わりに曲名が表示されるという粋な趣向であった。野球場でやるだけあって、すべからくそういった演出が成されていた。開演と同時に、ウグイス嬢のアナウンス。「1回の表、歌と演奏は、一番・奥田民生…」。大歓声である。ほどなくしてセンターから民生が登場。松ちゃんからもらったのであろう1人ごっつ作務衣に身を包み、ゆっくりとした足取りで内野に向かって歩いてゆく。奥田民生というミュージシャンのこれまでの人生を総括するかのような、壮大で孤独な戦いが今まさに始まろうとしていた。