無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

エレカシが置いて行けなかったもの。

エレファントカシマシ “平成理想主義の旅”
■2004/12/07@札幌ペニーレーン24
 6月の「パワー・イン・ザ・ワールド」ツアー札幌公演は個人的に2004年のベストアクトと言ってもいい、感動的であり圧倒的なロックンロールライブだった。そして前作からわずか半年で新作『風』を発表し、きっちり半年後にツアーで再び札幌の地を踏む。今のエレカシは今まで以上に歩みを止めずに前に進み続けている。これはもちろんそれを実現できるだけの体力がバンドにあるからなわけだが、その姿には自分たちに何かを課し、試すような求道者的イメージもある。自分たちはこの先何を歌うのか。何ができるのか。それがなければそもそもバンドなどやる意味がない。宮本浩次は今年発表した2枚のアルバムでソングライターとしてその壁を乗り越え、新たな季節を迎えている。そして前述の通り、前回のツアーはそれがバンド全体としても統一した意識として前進するためのガソリンとなっていることが実証されたものだった。この日のライブもその印象をさらに発展させるものであったと同時に、自分たちの出発点を確認するような確かな足取りを感じさせるものだった。
 前回のツアー同様、宮本はほとんどギターを手にすることはなく、石君の的確でパワフルなザクザクと空気を切り取るかのようなギターリフがロックンロール感あふれる音の輪郭を形作っていく。「人間って何だ」の前に、宮本はドラムセットに詰め寄り、富永を睨みつけ「君は何だ?何なんだ?君は何なんだ?」と恫喝する。一瞬トミのドラムにキレたのかと思って戦慄が走った(それも100%違うとは断言できない)が、そこからさらにパワーアップして新作『風』の曲を畳み掛けるように続けるのだった。正直、演奏面では前回のツアーで感じたほどの安定感はなかった。リズムがよれるのが気になった。しかし、(どこまで意図的なのかはわからないが)走る場合はとことん走って、落ち着くところでしっかり落ち着くという、曲のアレンジにそのドラムの不安定さを取り入れてしまうかのような強引な発想の転換があった。トミはモニタ聞いてないんじゃないかというくらいに自分の中のテンポで曲を転がし、時に空中分解寸前まで行きそうなアンサンブルを各メンバーがぎりぎりの呼吸で支えていた。ある意味ものすごくスリリングなロックンロールであるが、不思議とそれが不安として聞こえてこないのだ。この4人が鳴らしている以上OKだという無意識の安心感が僕の中にはあったような気がする。結成20年のベテランバンドに言うべき言葉ではないだろうが、いいバンドだと思う。
 基本的に『俺の道』『扉』『風』という最近作からで構成されたセットだが、その中に「ああ流浪の民よ」や、アンコールでの「too fine life」など、滅多にライブでは聞いたことのないような昔の曲が演奏されていた。公演ごとに曲目はやや異なっていたようだが、2作目〜4作目あたりの曲からセレクトされていたようだ。個人的に『扉』や『風』の中にはこの当時の雰囲気を髣髴とさせるものを感じていたので、このライブでその印象が確信に近いものに変わった。若かりし頃の自分と今の自分を重ね、変わらず持ち続けているもの/捨ててきたもの/新たに手に入れたものは何なのか。前に進み、新たな季節を迎える中で今一度それをしっかりと確認しようというような意識を感じるセットだった。
 年齢を重ねているのは彼らだけではない。昔から聞いているファンもそうなのだ。もちろん今年新たにエレカシに出会った人もいるだろう。その誰もを納得させるようなロックバンドとしての年輪を今のエレカシは具現化している。それは、もちろんだけど誰にでもできることではないのだ。

■SET LIST
1.一万回目の旅のはじまり
2.パワー・イン・ザ・ワールド
3.生命賛歌
4.人間って何だ
5.定め
6.DJ in my life
7.ああ流浪の民
8.友達がいるのさ
9.平成理想主義
10.達者であれよ
11.今だ!テイク・ア・チャンス
12.化ケモノ青年
13.俺の道
<アンコール>
14.悲しみの果て
15.too fine life
16.花男