無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

民生、40歳の挑戦。

奥田民生 〜okuda tamio TOUR “MTR&Y 05”
■2004/05/08@Zepp Sapporo
 ミニアルバム『comp』を引っさげてのツアー。今回の目玉はやはり、その新しいバンドである。キーボードの斉藤有太氏は変わらずバックにいる、その他は見慣れた長田氏、根岸氏、古田氏ではなくドラムに湊雅史、ベースに小原礼という布陣。ギターは民生1人きりである。
 アルバムと同じ1曲目2曲目からガツンとスタート。『comp』は非常にエッジの利いた固い音がする、民生のキャリア中最もハードロック的なサウンドを鳴らしていたアルバムだけれど、それが最も表に出る曲。長田氏がいるときはあまり二人のギターサウンドの違いについて考えることはなかったのだけど、こうして民生の音しか聞こえないととてもよくわかる。長田氏の音はなんと言うか割とブルージーな味があって温かみがあるのだけど、今回認識した民生の音は非常にざっくりとした、疾走感のあるギターなのである。自分しかいないということで気負う部分もあるのかもしれないが、ストレートにロックの快感を覚えるギターなのである。ちょっと意外だった。
 過去のアルバムの曲になると、この新バンドの音がいかにスカスカなものかというのがわかってくる。DSLを従えた分厚い音に慣れてしまうと物足りなく思う部分はあるかもしれないが、これはこれで非常に味がある。斉藤有太氏のキーボードはそのスカスカな音を埋めるためか、かなりいろいろな音色を使っていた(個人的にはちょっと時にうるさいかなという気がしなくもなかったけれど)。「何で同じメンバーじゃないんだ」という批判は、最初から想定の範囲内だったろう。そして今回の人選も、「そうしてもこのメンバーでなければならない」とか、「今の自分の音はこのメンバーじゃなければ実現できない」というようなものではなく、多分大きな理由はないんだと思う。とにかく、いつもと違うことがやりたかったのだ。このメンバーでどんな音が出るのか、民生たちにもわかっていないままにスタートしたのだと思う。個人的には小原礼氏のベースを初めて生で体験できたのが嬉しかった。サディスティック・ミカ・バンド再結成の時は見ていないし。なんというか、ほとんど洋楽のベースの音みたいなんだよね。湊氏のドラムはテクニック的なことはよくわからないけれども古田氏に比べてバコスコ感が強いというか、どこかぎこちないけれども力技でグルーヴを転がしていくような豪快さがある。(あまりにも緻密で具体的かつ専門的な音楽評論文ですみません)ここに前述のような民生のざっくりギターとあの声が乗ると、彼の曲が根本的にいかにロックンロールなのかということが実感として伝わってくる気がする。特に「人間」や「アーリーサマー」、「ハネムーン」などのスローな曲で強く感じる。どう考えても日本のチャートの中では異質なロックですよこれは。
 本編後半は怒涛のハード・ドライヴィン・ロックの嵐で、過剰すぎるほどの盛り上がりである。こういうオラオラ感もDSLとの布陣では見られなかったものじゃないだろうか。バンドの雰囲気は、緊張してるでもなく、リラックスしすぎるでもなく、フラットな感じ。小原礼氏は民生よりも1周り以上年上なはずだけど、普通にタメ口で話していた。でも、お互いに大人な感じの気の使い方をしていて、それもまた新鮮。「ちょす(ものをいじる、さわるという意味)」という北海道弁がいたくお気に召したようで、かなり連発していた。
 前述のように、このバンドでのプロジェクトは明確なサウンドとしての目的があったわけではなく、ひとつの実験的なチャレンジであるのだと僕は思う。こういうチャレンジに恐れもなくポッと飛び込める民生という人の軽さ、そして貪欲さに改めて敬意を表したい。40にして惑わず、じゃないが、事実この年でこうして自分の新たな可能性を模索するために慣れ親しんだ環境を飛び出せる人というのは、ロックの世界においてもなかなかいないだろう。ひとつ僕自身が残念だったのは、見てる間どうしてもDSLとの違いにばかり頭が行ってしまい、どこか素直にライヴにのめりこめなかったこと。次はシンプルにこのバンドの音を楽しむことができると思う。夏の石狩がこのツアーの総決算のようなステージになることをとても期待している。

■SET LIST
1.ギブミークッキー
2.快楽ギター
3.ベビースター
4.ライオンはトラより美しい
5.何と言う
6.家に帰れば
7.人間
8.細胞
9.アーリーサマー
10.ハネムー
11.海の中へ
12.手紙
13.スタウダマイヤー
14.スカイウォーカー
15.恋のかけら
16.プライマル
17.哀愁の金曜日
18.サプリメン
19.サウンド・オブ・ミュージック
20.ルート2
<アンコール1>
21.船に乗る
22.さすらい
<アンコール2>
23.BEEF