無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

笑いと涙の怒髪天劇場。

怒髪天  桜吹雪と男呼唄 サツキ・グリーンツアー〜4人は見切り発車
■2004/05/22@札幌ペニーレーン24
 昨年とうとうメジャー移籍を果たした怒髪天。99年の活動再開から5年、バンド結成から15年という長い年月の果てにである。ミニアルバム『握拳と寒椿』の帯には「遅咲きにも程がある」と書かれていたが、まさに。40代にさしかかろうかという男達の逆襲が始まっている。活動も順調であり、今年の RSRFES出演も決まった折の地元凱旋。ペニーレーンは満員御礼だった。
 お決まりの出囃子にのって4人がステージに登場。最新作『桜吹雪と男呼唄』から「男は胸に…」でスタート。『握拳〜』と『桜吹雪〜』は「男シリーズ」前後編と銘打たれており、2枚でひとつのアルバムといってもいい内容である。テーマとしては彼らの核のひとつでもある「男臭さ」「男の情けなさ」「ダメな男の生き様」をフォーカスしたものになっており、メジャーでの活動に際し自分たちの本質を最初にドンとぶつけようという考えなのだと思う。この2作と、『リズム&ビートニク』『TYPE-D』『武蔵野犬式』といったインディーでの最近作からの選曲が主で、ファンにとってはベストヒットパレードと言ってもいいセットである。地元ということもあってか、増子兄ぃのパフォーマンスも2割増くらいの前のめり具合。会場からかかる声は野郎だけではなく女の子の声援も少なくない。ストレートで不器用な男の生き様を体現する彼らのライブは、「なんだか上手いこといかねえなあ」という思いを抱える老若男女すべてにアピールするものなのである。特にこの日は地元ということもあり、メンバーの旧知の友人も集まっていたようで、アットホームな雰囲気もあった。増子兄ぃのキャラクターや抱腹絶倒のMCのため、彼らのライブにおいてピリピリした緊張感というものを感じることはほとんどないが、それにしてもとにかく楽しい、という一言に尽きる時間であった。ちなみに北海道(札幌)の人間にとってこの日最も笑ったMCは「食の祭典」がらみのネタだった。あったなあ、そんなの。某 btbの方や某eyの方もあそこでバイトしてたなんて。北海道インディーロックの陰の歴史を垣間見た気分。
 フェスやイベントでの時間が限られた中でのステージとは違い、ワンマンだと選曲の幅は広がる。ということを増子兄ぃは言っていた。やりたくてもワンマンでしかやれない曲があると。「五月の雨」もそんな曲で、しかも札幌で、5月にやれるというタイミングは滅多にないと。そんな思いを込めて歌われて感動しないわけはない。とにかく届けたいんだ、と増子兄ぃは言う。だからステージから客席に身を乗り出して叫んでしまうんだ、と。不器用なやり方である。でも、だからこそファンは怒髪天を信じられるのである。本編最後は「酒燃料爆進曲」「実録!コントライフ」で疾風怒濤に駆け抜けた(怒涛すぎて坂さんのドラムが一瞬転びかけた)。「酒燃料〜」のときの増子氏のお猪口をクイっとやる仕草はいつ見てもそれだけで酒を飲みたくなる。最高。
 怒髪天の曲には、底辺でどうにもならずにもがく情けない人間の姿が描かれることが多いが、それを悲劇として描くのではなく、笑い飛ばすパワーがある。それでも生きていくしかねぇべよ、とつんのめってコケながら前進するエネルギーがある。アンコールで披露された「雑草挽歌」や「俺様バカ一代」はその代表的なものである。怒髪天の曲は悲しくも可笑しき人生劇場である。笑わば笑え。その先には微かな希望が見えるじゃないか。「サスパズレ」では当然、会場全体での大合唱。今年はどこのステージでこの光景が見られるのだろうか。まさかまたメインステージじゃないよね(笑)。
 2度目のアンコール、演奏されたのはイースタンユースの呼びかけによるコンピレーション『極東最前線』に収録された「サムライブルー」だった。この日、最も熱い、引き込まれるような圧倒的な歌唱。歌い終わってステージに崩れた増子兄ぃに対し、拍手がなりやまない。増子兄ぃは感極まり、涙混じりに最後のMC を搾り出した。「俺らはいるから。横にずっといるから。だから生きてくれよ。」冗談の一切ない、真摯な一言一言。それを静かに受け止める観客。ラストは「星に願いを」。力技で星まで願いを届けようとするドン・キホーテのような叫び。こちらも涙とともに受け取った。これでまた明日から笑って生きていける。涙と笑いの怒髪天劇場、本日はここまで。天晴でした。

■SET LIST
1.男は胸に…
2.愛の嵐
3.男の華
4.ロクでナシ
5.社会人ファイター
6.唐獅子牡丹
7.NINKYOU-BEAT
8.むしけらブンブン
9.傷跡のバラッド
10.フーテン悪ツ
11.青嵐−アオアラシ−
12.五月の雨
13.宿六小唄
14.酒燃料爆進曲
15.実録!コントライフ
<アンコール1>
16.雑草挽歌
17.俺様バカ一代
18.サスパズレ
<アンコール2>
19.サムライブルー
20.星に願いを