無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

成長の速度。

ether[エーテル]

ether[エーテル]

 前作『朝顔 (CCCD)』から約1年半を経てのセカンド。その間、ツアーを成功させ、きちんとシングルをリリースしとはたからは順風満帆な活動を続けてきたように見える。が、その実本人たちは殻を破ろうとかなり追い込まれていたようだ。しかし完成したアルバムを聞くとそうした閉塞感は微塵もなく、爽やかな清涼感に満ちたものになっている。
 前作までを聞いた上で言うと、彼らの大きな魅力というのは日常のほんの些細な出来事や心象風景を普遍的なメッセージや概念に無理矢理落とし込んでしまうような、力技のダイナミズムだったと思う。少なくとも僕にとってはそう。本作でもそうした作風は大きく変わってはいないが、サウンドの輪郭や手触りは前作と大きく異なるものになっている。オーケストラを導入したり、アレンジの幅が広がったことで音楽のダイナミクスは間違いなく大きくなっている。前々からライヴで披露されていた曲もあるが、かなり印象が違う。その一方で前作にあったトリオ編成のロックバンドだからこそ生まれうる凝縮された熱量みたいなものがややスポイルされてしまったんじゃないかと言う感も否めない。このアルバムはとてもよくまとまっている。というかまとまりすぎていて、ベテランバンドのような安定感すら漂っている。もちろんそれが悪いということはない。本作を絶賛する人にとっては前作からのこの成長ぶりが大きなポイントであるのだとは思う。が、どうしても僕には違和感として残ってしまう。彼らのバンドとしてのポテンシャルが本作のようなサウンドを希求し、このクオリティに達するのは必然の流れであったかもしれない。しかしここまで急ぐ必要があったのだろうか。意地悪な見方をすれば、少し背伸びしているんじゃないかという言い方もできる。
 若いバンドがオーバープロデュース気味になるのってあまりよくないことだと思う。余計なお世話かもしれませんが。