無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

エレカシは牙を研ぐ。

エレファントカシマシ 〜すまねえ魂 2005
■2005/06/11@札幌ペニーレーン24
 ここ数年のエレカシは、何かにとり憑かれたかのように独自のロックを磨き、さらに追い求めるために苦行のようなツアー、そしてレコーディングを行ってきた。アルバムで言えば『Dead or Alive』以降の話である。その中で『俺の道 (CCCD)』、『』といった傑作をモノにしてきた。しかし現在、エレカシの決定版、と言える画期的なサウンドが誕生したかと言えば、けっしてそうではない。前述した彼らのトライアルが実を結んでいない、というのではない。昨年6月のライヴ感想でも書いたように、ライヴにおける演奏の強度は間違いなく過去最高となっている。しかし彼らは、宮本は決してそれに満足しない。今年に入ってからは毎月1度のシークレットライヴを敢行し、小さな会場で、彼らを目当てに集まったのではない客を前に新曲を演奏しまくっていると言う。宮本浩次は今年39歳になった。(忌野清志郎RCサクセションとしての活動を休止した年齢である。)この年齢になってなお、自分たちのあるべき姿を追い求めることに全精力を傾けることができることこそがエレカシエレカシたる所以であるのだと思う。
 というわけで新曲がたくさん聞けるだろう、と思って足を運んだペニーレーンであったが、新曲として聞けたのは2曲のみだった。ちなみに下のセットリストにある新曲のタイトルは聞き取れた歌詞から僕が勝手につけたものなのであしからず。ステージに宮本以外のメンバーが登場し、イントロを演奏。宮本がゆっくり登場というパターンで1曲目の新曲が演奏された。激しいリフと味のある深いメロディーに乗り「探してる/探し歩いている/何かを探している」という、焦燥感を叩きつけるナンバーだ。「すまねえ魂」というツアータイトルが出てくることから、現在の彼らのモードを象徴する新曲であるのだろう。これは名曲である。もうひとつ聞けたのはわりとストレートでポップなナンバー。「青い空から落ちてきた流れ星のような人生」というフレーズが頭に残っている。この2曲だけで次作の方向性を推し量ることはできないが、こうしてライヴで歌詞もアレンジもほぼ完成した新曲を披露するのはエレカシにしては非常に珍しいことだ。曲を作り、ひたすら練習し、ライヴを行う。そんな健康的なサイクルの中でエレカシは来るべきアルバムに向けての牙を研いでいるのだろう。
 それ以外の内容はと言えば、セットを見ても判るように、オールタイムからセレクトされた懐かしい曲のオンパレード。恥ずかしいことを言えば、「デーデ」から「四月の風」「やさしさ」までの流れは僕が大学時代に作っていた「マイ・エレカシ・ベスト」テープそのままみたいな選曲である。しかし、上記のように新曲がかなり「次」を期待させるものだったのでこのセットが全く後ろ向きなものには聞こえなかった。それにはもうひとつ要因があって、それはやはりバンドの演奏そのものである。確実にボトムが太くなり、石君のエッヂーなギターが前面に出てくるようになっている今のエレカシが過去の曲を演奏すると、当時とは全く別物に聞こえるくらいである。事実、今『浮世の夢』〜『奴隷天国』あたりのアルバムを聞くとミックス的にボーカルの比重が大きすぎてサウンドが薄っぺらく感じる。『ココロに花を』のレコーディングの際、音源を聞いた宮本がウォークマンを叩き壊したと言う話は今や伝説だが、現在の音だったら果たしてそうしただろうか。そのくらい、昔の曲にも筋力がついているのである。「四月の風」のようなポップな曲にも確実にビルドアップされたロックンロールの血が流れていた。
 惜しむらくはアンコール含めて全13曲、1時間強というヴォリュームにやや物足りなさも感じたこと。しかし、間違いなく近いうちに新作を携えてこの飢餓感を満足させてくれることだろう。それまで、ネット&ライヴ会場限定発売のライヴ盤を聞きながらその瞬間に思いを馳せることにしよう。

■SET LIST
1.すまねえ魂(新曲)
2.デーデ
3.奴隷天国
4.おはようこんにちは
5.悲しみの果て
6.今宵の月のように
7.四月の風
8.果てしなき日々
9.流れ星のような人生(新曲)
10.やさしさ
11.生命賛歌

12.BLUE DAYS
13.極楽大将生活賛歌