無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

高まりつつある喜びに満たされている。

FULL OF ELEVATING PLEASURES

FULL OF ELEVATING PLEASURES

 デビュー作の『OUT LOUD』はいいとして、その存在が急速に知られ始めてからのブンブンサテライツはダンス/エレクトロニックユニットではなく、明らかにロックバンドであった。本人達がどう思っているかではなく、ミュージシャン個人の思想が音楽として発露するに至る回路構造がまさしくロックの持つそれであったということである。単純に言えば、カッコいいし気持ち的に盛り上がる音楽ではあったけれど、音の発するヴァイヴが重くて踊れなかったのである。大方にしてダンスミュージックに明確なメッセージ性を持ち込もうとする場合、どうしても頭でっかちになるきらいがある。そうなると「踊る」、というダンスミュージックにとって最も重要な機能性がスポイルされてしまうことになる。その傾向は特にセカンド『UMBRA』に顕著だった。前作『PHOTON』もまだその方向を引きずっていたが、この新作ではかなり吹っ切れている。切れのいいビートと印象的なメロディー、今までよりバラエティに富んだサウンドが気持ちいいスピード感で耳から体全体に入ってくる。インドアではなく、アウトドアで感じたい音楽だ。昨年のライジングサンはイースタンユースか誰かとかぶっていて泣く泣く断念したのだけど、見に行った人間に聞いたところ異常に盛り上がってアンコールまでやっていたのだそうだ。本作の方向性はその頃から見えてきていたのだろう。
 但し、このアルバムが単にポジティブなヴァイヴを持ち、踊って楽しいだけのものかというと決してそうではない。歌詞の裏側から透けてくる彼らの現状認識はやはり重く暗いままだし、それに対し斜めに構えたりすることなく真っ直ぐ向きあっているのは確かだ。彼らの音楽のモチベーションは日本の音楽シーンへのアンチだったり、現在の世界に対する違和感だったりすると思うのだが、それに対し内省的に突き詰めて音楽の文学性を高めるという方向ではなく、音楽としての強度を上げダンスミュージックとしての機能性を発揮した上でマスに届けるという意志を持ったのだと思う。このアプローチは実に正しい。踊れるし、ロックとしてのエッヂも決して失ってはいない。
 "Dance the night away"というフレーズが全く享楽的に聞こえないところが、いかにもブンブンだよなあと思ってしまう。個人的にはこれまでの彼らのアルバム中で最も好きな作品になっている。