無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

見ろ、人がゴミのようだ。

宇宙戦争 [DVD]

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 H.G. ウェルズの原作をスピルバーグが50年ぶりに映画化。当然のごとく僕は原作を見ていないし、過去に映画化された作品も見ていない。いろいろ情報を聞くとかなりスピルバーグは原作を忠実に映像化しているらしい。が、とりあえず作品としては現代のアメリカを舞台にしているので、当然この 2005年の世相とそれに対するスピルバーグ自身のメッセージが多少なりと含まれることになる。簡単に言えばやはりこれは「9.11以降」の映画であるわけで、宇宙人に襲撃されて逃げ惑う人々や崩れ落ちる建物、生き別れた家族を探してそこかしこに貼られた写真入りのビラなどの描写は否が応にもNY同時多発テロの際のニュース映像を思わせる。これは宇宙人に地球が襲撃されるという架空のテロを描いた映画だが、そこに映し出されている混乱や悲劇はまさしく今現在進行形で起こっていることに他ならない。
 さて、その宇宙人襲撃の映像だけれども、これがすごい。最初に宇宙人の操るトライポッドが地中から現われるシーンの勿体つけ具合もいいし、彼らの襲撃について全く何の説明もないままガンガン人が殺されていくのも恐怖を煽る。そう、描き方としてはまさにホラー映画のそれだ。殺戮描写のスピード感、臨場感は圧倒的で、「プライベート・ライアン」のSF版といった趣。この「人がゴミのようだ」具合は、ポール・バーホーベン監督の「スターシップ・トゥルーパーズ」に匹敵するのではないかと思う(あそこまでグロくはないけど)。軍隊が全く無力なことも含めて、中盤に漂う「ああもうこりゃダメだ」感に向けての演出が効果的すぎる。
 僕がこの映画をいいと思った理由はもうひとつあり、かつての「インディペンデンス・デイ」等の宇宙人撃退映画のように「最終的に宇宙人を倒したアメリカ万歳」なものになっていないということ。この映画には宇宙人に対して軍隊を指揮するアメリカ国防省のお偉方も出てこなければ、大統領が苦悩を浮かべるシーンも何もない。あくまでもストーリーはトム・クルーズ演じる父親と娘・息子の逃走劇に終始している。国家というか、地球そのもの、人類存亡の危機という一大事を一家族の視点のみで描くことで映画の焦点が絞られて素直にのめりこめるし、この方がよっぽどリアリティがある。この辺がマイケル・ベイとかローランド・エメリッヒに代表されるようなドル箱映画専門監督とスピルバーグの決定的な差なんじゃないか、という気がする。
 『アイ・アム・サム』で個人的にも注目したダコタ・ファニングは父親に反発しながらも彼を頼りにするしかなく、最終的に彼を信頼するに至るという娘の心情の移り変わりを見事に演じている。11歳にしてこの演技はアカデミー助演女優賞モノです。