無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

その目に、その手に全てはある。

100s 〜The Tour of OZ#
■2005/09/09@Zepp Sapporo
 中村一義のライヴを見るのは「博愛博」ツアーを見に東京に行って以来で、実に3年半ぶり。100sとして活動してからは初だ。と言っても、実際ツアーで北海道に来るのはこれが初めてなわけで、フェスを見に行ってない地方の人間にとってはこの「OZ」ツアーが彼のライヴ初体験になると言っていいと思う。ツアー前半は北海道の日程が無かったが、この後半戦「The Tour of OZ#」初日がこの札幌である。
 ステージには大きなミラーが設置されているだけで、派手な装飾は何もない。メンバーは半円状に並ぶ形で、すべての楽器がフロアから見えるようになっている。まず中村一義を除く5人が登場。ゆったりしたセッションが徐々に熱を帯びていき、最高潮に達した所で中村君登場。そしていきなり「光は光」に突入。個人的に、『OZ』でも最も感動的な曲の一つだと思っていたのでこんな序盤に出てくるとは意外。しかし、これがこのあと続く至福の1時間半の幕開けであったのだ。『OZ』というのは現在の暗澹たる世界を過去から検証し、未来に続く希望の光を描き出すという壮大なコンセプトアルバムだった。それを実現したのは中村一義という人の誇大妄想的でありながら真っ直ぐに光を見つめることのできる天才と、100sというバンドの存在ゆえである。100sのメンバーは皆腕利き揃いだが、単に技術的に優れているだけではあのアルバムは創れなかっただろう。精神的な部分で中村一義という人のビジョンを共有し、それをさらに発展させ音として具現化できるからこそ、中村一義はこのメンバーと共に活動しているのである。アルバムを聞いて判っていた事ではあるが、目の前でそのステージを見てしまうと、その繋がりの深さにしびれてしまう。
 「Honeycome〜」をはじめ、『OZ』からの曲はどれも単体で力を持っている曲ばかりだが、ライヴという場で再構築されたそのサウンドは本当に曇りがなく、素直に感動してしまうようなものだった。「バーストレイン」から「扉の向こうに」まではその遠心力で世界を広げていくかのような大きなうねりを描き、「A」から「いきるもの」では次のステージへ一点突破するような疾走感で駆け抜ける。その先にはキラキラと輝く「新世界」があり、本編ラストの「K- ing」で全てを光の中へと昇華させ、祝福するのである。もう、この本編だけで完璧な流れである。当然であるが、3年前とは違い、中村一義がライヴをやること自体にはもう特別な意味は無い。そこでどんな音が鳴らされるのか、どんな時間が展開されるのかが問題なのだ。その意味でも、100sは素晴らしい「ライヴ・バンド」だったと思う。特にドラムの玉田氏のプレイはすごかった。この人の音、大好きだ。
 アンコールは「またあした」で終わると見せかけて、超反則の『ERA』メドレー。この間ネットで「いつ聞いても泣いてしまう曲は?」というアンケートの結果を見たのだけど、僕にとっては「君ノ声」がまさにそれだ。CDで聞いても、自分で口ずさんでも涙腺が緩んでしまう。ましてや目の前で歌われたら、という話だ。気がつくとそこかしこで鼻水をすする音が聞こえている。僕のすぐ横では大学生くらいの男の子が彼女の前で「やべぇ」とか言いながら泣いていた。いや、大丈夫別にやばくないよ。普通に泣くよこの展開は。「1,2,3」は全員が腕を上げ、声を揃えてのクライマックス。中村の描く「遮るもののない光」が、フロアとステージが一体になったことで見事に実現されたようなハレの空間。スピリチュアルな部分で『OZ』と『ERA』が直結しているということが非常に良くわかる。
 やむことのない拍手の中、アコースティックで「バハハイ」を演奏し、そそくさと帰ろうとするメンバーもいる中、中村君と池ちゃんがなにやら密談。「もう1曲いく?」「やるならアレだよね」的な会話が交わされたのか知らないが、彼らが演奏したのはもうこれしかないだろうという、「キャノンボール」。イントロが聞こえた瞬間からフロアの温度が上がったような興奮。「そこで愛が待つゆえに僕は行く。」いまだ色あせない、確信のフレーズが鳴り響き、光に包まれたライヴは幕を閉じた。「オーバー・ザ・レインボウ」のメロディーが流れる中会場を後にする人たちは、目を潤ませながら満面の笑顔だった。もちろん僕も。

■SET LIST
1.OZ session
2.光は光
3.ラッタッタ
4.バーストレイン
5.ここが果てなら
6.やさしいライオン
7.Honeycome.ware
8.扉の向こうに
9.A
10.B.O.K
11.いきるもの
12.新世界
13.K-ing
<アンコール1>
14.またあした
15.グレゴリオ
16.君ノ声
17.1,2,3
<アンコール2>
18.バハハイ
19.キャノンボール