無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

転がる石には苔は生えない。

A Bigger Bang

A Bigger Bang

 オリジナル・アルバムとしては1997年の『ブリッジズ・トゥ・バビロン』以来、実に8年ぶりの新作。しかしその間、1998年に来日ツアーを行い、40周年のベスト盤『FORTY LICKS』のリリースとそれに伴う世界ツアー、来日と、音沙汰がないどころか精力的に活動していたので久しぶりという気はしない。僕自身過去2度のツアーは東京ドームで見ているというのもあるし(どちらも素晴らしい体験だった)。それにそもそも2005年の今において、ローリング・ストーンズの新作がそんなに大きな意味を持つものなのかという疑問も正直言って、ある。特に90年代にリリースされた過去2作『ヴードゥー・ラウンジ』と『ブリッジズ〜』がお世辞にも充実作とは言いがたかったのでなおさらだ。
 しかし、この新作には驚くほどに瑞々しいストーンズのロックンロールがたっぷりと詰まっている。全16曲、当初は2枚組としてリリースするアイディアもあったほどだそうだ。いろんなところで『メインストリートのならず者』と比較されているみたいだけれど、それはボリュームというだけではなく、ルーズで黒い、R&Bやソウルを基調としたストーンズのグルーヴが復活しているからだと思う。僕がリアルタイムでストーンズを意識してきちんと聞くようになったのは1989年の『スティール・ホイールズ』からだったのだけど、少なくともそれ以降で最もレアなロックンロールバンドとしてのストーンズがこの新作では聞ける。「バック・オブ・マイ・ハンド」などスタンダードのカヴァーかと思うほど本格的なブルースだ。過去数作で鼻についたミック・ジャガーの最新トレンドを追いかけるような音作りがほとんど聞かれないのもいい方向に作用していると思う。結果、それがこの新作を2005年のコンテンポラリーな音として意味あるものにしている。来年にはこの新作を引っさげての世界ツアーの一環で来日するだろう。「ラフ・ジャスティス」や「レット・ミー・ダウン・スロウ」、「ルック・ホワット・ザ・キャット・ドラッグド・イン」が過去の名曲たちとともに演奏されるのだ。ステージで新曲を聞けるのがこんなに楽しみなストーンズというのも個人的には初めてだ。
 ところで、今作を聞いて改めて感じたのだけど、このストーンズにしかありえない独特のタイム感というのを形作っているのはキース・リチャーズのギターではなく、むしろチャーリー・ワッツのドラムである。ジャストなようでいてズレているし、ズレているようであまりにもジャスト。こんなドラム彼にしか叩けないだろう。ミックやキースが「チャーリーがいなくなったらストーンズは終わり」というのも納得である。
Exile on Main St.Steel WheelsBridges to BabylonVoodoo LoungeForty Licks