無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

光で目もくらみ。

State of Mind

State of Mind

 様々なミュージシャンのバックを務めてきたという盲目のミュージシャンのデビュー作。まず、プレイヤーの再生ボタンを押して出てきたアコースティックギターの音に圧倒される。パーカッションのように弾き出されるシャープなリズムの切れはどうだ。ほとんど何の情報も無いままCD屋の試聴機を動かしたのだけど、この1曲目のイントロだけで気がついたらレジに速攻。その直感は実に正しかった。
 全編通じてほとんどの曲はアコギ、ベース、パーカッション、オルガンそしてヴォーカル(コーラス)くらいの少ない楽器で構成されているにもかかわらず、非常に色彩感豊かで奥行きのある空間を創り出している。ソフトかつソウルフルなヴォーカルは素晴らしく表現力に富み、若き日のスティーヴィー・ワンダーを彷彿とさせる(彼よりも声自体は太いが)。盲目であるということも彼との比較を助長するだろうが、実際アルバム中の1曲でスティーヴィーがハーモニカで参加している。ミュージシャンとしての能力の高さから、どちらかというと玄人好みするようなタイプのアーティストかもしれないが、ブラック・ミュージック、R&B等に興味があるのならこのアルバムを素通りすることはかなりの損失じゃないかと思う。
 必ずしもポップという性格を持つ音楽ではないが、どの曲も1本筋の通った緊張感があり、深みのある渋さが聞き手を彼の世界に強力に引き込んでいく。と同時に包み込むような包容力にも満ちている。一聴するとシンプルな作りだけど繰り返して聞くたびに新しい発見があって本当に飽きない。あまり安易には使いたくないけれども、自然と「天才」という言葉が浮かんできてしまう。
 音楽性が似ているとかではなく、テレンス・トレント・ダービーやジェフ・バックリイのデビュー作を聞いた時にも似たような戦慄を感じたことを思い出した。圧倒的な音楽の前に背筋を正されるかのような、そんな体験。しあわせ。