無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

深夜2.5時のロック禅問答。

ZAZEN BOYSIII

ZAZEN BOYSIII

 というわけでグルーヴ・マスター松下敦を加えての三作目。より柔軟性を増したアンサンブルはジャズ的とも言える自由度を手にしている。セッションをそのまま収録したようなインストもあり、本作における向井氏の志向はそのあたりにも現れているのではないかと思う。エレピをフィーチャーした曲があるかと思えば「RIFF MAN」のようにZAZEN史上最も強烈なギターリフをメインに据えた曲もある。前作から比べてもサウンドの広がりは顕著である。
 向井秀徳は本作について語る際に、よくレッド・ツェッペリンを引き合いに出していた。それがどういう意図のものかは正確にはわからないが、ツェッペリンのように個々の楽器の魅力だけではない、バンドの音そのものが一つの塊のように一体になった総体性のようなものを意識しているのかもしれない。
 ただ、人間というのは得てして何でもできる自由を手にしたからと言って何でもできるわけではない。忙しい時にはあれこれしたいことが山のようにあっても、いざ休日になったら何もせずにゴロゴロしたりするものだ。このアルバムがそういうものだと言うつもりはないが、アルバムを通じての印象は前2作に比べるとやや薄い気もする。自由度が増したとは言っても、人間が奏でる音楽に完全な自由など存在しない。制限があるからこそ、その中での「自由」に意味があるのであり、その自由をいかに獲得するかというのは、ロックという音楽の一つの命題とも言えるものじゃないかと思う。ZAZEN BOYSというバンドはそのテーマを無条件に追求することのできる数少ない日本のバンドであると僕は思っている。本作は、彼らが彼らにとっての「天国への階段」を産み出すための過渡期であるという風に受け止めたい。