無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

大いなる蛇足。

First Impressions of Earth (Dig) (Spkg)

First Impressions of Earth (Dig) (Spkg)

 もしかしたら僕はストロークスというバンドをちょっと、いや、かなり過小評価していたのかもしれない。確かに、彼らのデビューアルバム『Is This It』がいち早く21世紀のロックの指針となり、その後のガレージリバイバルやニューウェイヴリバイバル(そんなモノあったのか知らないけれど)に大きく影響を与えたのは事実。だけれども、ストロークスというバンドに僕が抱いていたイメージは、いいメロディーを書くしアレンジのセンスもいいけれど演奏はちょっとアレなバンドというものだった。ごめんなさい、撤回します。
 技術的にレベルが上がったということもあるけれど、このアルバムでの音楽的飛躍の要因は音、サウンドに対する志の高さとでも言うべきものだと思う。何を、どうやって鳴らすのか。どういう音が鳴っているべきなのか。その音を鳴らすために何をどう向上させなくてはいけないか。そうした試行錯誤を経てきたからこそのバンドアンサンブルの妙が味わえる。特に、アルペジオを基調とした細かいフレーズが絶妙に絡み合い、独特のグルーヴを生み出していくニックとアルバート、2人のギタープレイは聞きどころだと思う。間奏でフラメンコっぽくもあるギターソロが展開される「ヴィジョン・オブ・ディビジョン」は本作のクライマックスのひとつと言っていいだろう。硬派なサウンドアプローチと音圧の高いアンサンブルが全編を貫き、真正面からギターロックとがっぷり四つに組んだ本作は今までの彼らのアルバムの中でも群を抜いて男性的というか、「熱さ」を感じさせるアルバムだと思う。
 ただ、その熱が続くのは前述の「ヴィジョン・オブ〜」までで、その後はやや平坦な印象になってしまう。メロトロンをフィーチャーした「アスク・ミー・エニシング」で展開を一度落ち着かせるのだけど、結局前半のような盛り上がりは帰って来ない。曲自体も完成度の高いものが前半に集中していたとも思う。ギターロックというものの魅力と可能性をシンプルにかつスタイリッシュにざっくりと描き出す本作のスタイルは個人的に好みだし、ストロークスというバンドのポテンシャルを改めて見せつけているとも思う。簡単に言えば、このアルバムの前半聞いたらロックバンドってカッコいいと思うと思う。それだけにもったいない。収録曲を絞り込んで40分くらいにしたらもっとすごいアルバムになったんじゃないだろうかと思う。