無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

転がる石にはやっぱり苔は生えない。

THE ROLLING STONES 〜A BIGGER BANG TOUR〜
■2006/03/24@東京ドーム
 “FORTY LICKS”ツアーのときの感想で、僕は「全盛期の自分たちに及ばないのは彼ら自身が一番分かっていることで、そんなことよりも彼らが演奏し続けているということ自体が感動的なんだ」という意味のことを書いた。もう恥ずかしいというかなんというか。率直に言って3年前よりも、もっと言えば僕が初めて彼らのライヴを見た98年の来日時よりも、今回のほうが若々しかった。
 北米ツアーでも使ったという、天井の高いドームだからこそ可能なステージ上にそびえ立つビルのようなセット。そしてその中には実際に観客が入っているという(超VIP席)。その、アホみたいなでかいセットに呆ける間もなく「スタート・ミー・アップ」でライヴはスタート。「イッツ・オンリー・ロックンロール」と続き、会場の盛り上がりも上々。前回僕が見たときには演奏がヨタることも少なくなかったのだが、今回はそんなことは全くなかった。一番心配だったのは病み上がりのチャーリーのドラムなのだけども、そんな心配をよそに最初から最後まで非常にパワフルに叩いていた。もう一人心配だったのはアルコール依存症からのリハビリを経たロン・ウッドだが、こちらも元気よく、満面の笑顔でファンサービスを交えてのプレイ。キースのギターも3年前よりも遥かにキレていて、小憎らしいほど。ロックンロールという彫刻に一つ一つざっくりと刀を入れていくかのような職人芸を見せてくれていた。キースメインのパートでも相変わらずの渋いボーカルと余裕のギタープレイ。お約束の「ハッピー」も、新たに命を吹き込まれたかのようだ。
 前回のツアーよりも今回の方が生き生きしているという理由のひとつは間違いなく『ア・ビガー・バン』という新作の存在だろう。原点回帰、という単純なものではないが、あの溌剌としたパワーを持つざっくりとしたロックンロールアルバムを作り上げたことがステージにも反映されているのだろう。「ミス・ユー」の演奏途中で、ダリル・ジョーンズを含む5人のいるステージ中央部分がゆっくりと動き出す。レールに沿って、そのままアリーナ後方のBステージへと移動するという驚異の仕掛け。そして、新作のオープニングナンバー「ラフ・ジャスティス」へ。この小さなBステージでのシンプルな演奏が、新作を経た彼らのモードを最も強く表していたと言えよう。僕の席からははっきりと彼らの表情までは見えなかったが、楽しそうに演奏していたに違いない。「ホンキー・トンク・ウィメン」の途中で、再びステージが移動し、メインステージへと戻る。「悪魔を憐れむ歌」「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」そして「ブラウン・シュガー」と、怒涛の名曲ラッシュで本編終了。ほとんど間をおかずにアンコールへ突入。「無常の世界」、そして最後はやはり「サティスファクション」。後半、特にキースパート以降は興奮しっぱなしのまま終わった。とても短く感じたが、気がつけば2時間経っていたという感じ。
 何度も書くが、今まで僕が見た中で今回のストーンズが最も元気だった。全員が60超えたバンドに対して信じられない感想だが、本当に若々しかった。特にミックの全く贅肉のない体と、そのステージアクションには感動すら覚える。だって、60過ぎたおっさん(というか、おじいちゃんの域でしょう)が東京ドームのステージの端から端まで全力疾走して、息切らさずに歌うんだよ。信じられない。どういう節制と管理をしているのか、と考えただけで頭が下がる。そして、驚くべきはステージ上の彼らが単に若かったというだけではない。今回は新作を引っさげてのツアーだが、実際には新作からの曲は2、3曲しか演奏されず、ほとんどは過去の名曲ヒットステージという趣である。しかしそれが単なる懐古趣味の懐メロ披露になっているのではなく、新作のモードをビビッドに反映した、最新型のストーンズへとモデルチェンジされているのである。(ついでに言うと、ミックの日本語も多少進歩が見られた)世のベテランバンドのほとんどは、ある程度の年齢を過ぎれば過去の自分たちの再生産でアイドリング運転のような活動になるのが常である。一時期はストーンズももはやそういうバンドだろう、と思っていた。が、今回のステージである。この、全うな進化を辿るだけのバイタリティと、それを実現させるだけの貪欲さ。そこには、紛れもない現役のバンドとしてのプライドが見え隠れするのである。こんなものを見せられると本当に次の来日がいつなのか今から楽しみになってしまう。

■SET LIST
1. Start Me Up
2. It's Only Rock'n Roll(But I Like It)
3. Oh No Not You Again
4. Bitch
5. Tumblin' Dice
6. Worried About You
7. Ain't To Proud To Beg
8. Midnight Rambler
9. Gimme Shelter
10. This Place Is Empty
11. Happy
12. Miss You
13. Rough Justice
14. You Got Me Rocking
15. Honky Tonk Women
16. Sympathy For Devil
17. Jumpin'Jack Flash
18. Brown Sugar

19. You Can't Always Get What You Want
20. Satisfaction