無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

紫色の欲望。

3121 (Dig)

3121 (Dig)

 前作『ミュージコロジー』は80年代の全盛期プリンスサウンドが見事にコンテンポラリーな輝きをもって鳴り響いた「復活」作だった。そしてこの新作もそのモードをさらに推し進めたものになっている。「3121」というのはプリンスの自宅の住所(番地)らしい。アルバムのスリーブにも彼の自宅の写真がそのまま使われている。(しかし、それはおおよそ普通の人間の感覚からはかけ離れた空間ではあるのだが。)レコーディングの一部もその自宅で行われたようだ。
 先行シングルにもなった「テ・アモ・コラソン」のレイドバックしたラテン趣味にはちょっと首をひねったが、その他はまさに面目躍如のプリンス節が満載である。「3121」や「ブラック・スウェット」の粘りつくようなファンク、「ロリータ」でのプワプワしたキーボード、「サティスファイド」に代表されるファルセット・ヴォーカルのバラード、「フューリー」でのバリバリなギターソロ、そして「ゲット・オン・ザ・ボート」のバンドサウンド・ファンクはNPG時代の音を思い起こさせる。前作以上に、プリンスがかつてイノベイトしてきたサウンドの現在的解釈と言える内容になっている。そして歌詞にも注目したい。ここ数年のプリンスの作品には、彼のエホバの証人への入信を反映してか、神への信心を歌うような内容のものが多くなり、あからさまにセックスを連想させるようなエロティックな歌詞が姿を消していた(その最たるものが『レインボー・チルドレン』である)。しかし、このアルバムではそれが全面解禁になっている。一体彼に何があったのだろう。
 大半の曲は彼自身がひとりで全ての楽器をプレイしている。ゲストミュージシャンもメイシー・グレイやキャンディー・ダルファー、シーラ・E などおなじみの名前が並ぶ。その中で特にフィーチャーされているのがテイマーという女性ボーカリスト。「ビューティフル・ラヴド・アンド・ブレスト」は彼女がメインヴォーカルを務めており、彼女のソロデビュー曲にもなるという。今プリンスが最も入れ込んでいるヴォーカリストなのだと思われる。余計な詮索をするつもりはないが、単純に新人アーティストをプロデュースするというだけの関係なのだろうか?前述したエロティック路線回帰やプライベートな空間を開陳するようなアートワークに、いろいろ悶々とした妄想が広がっていくのである。下世話な話だというのは分かっているし、実際はどうなのかなど知る由も無い。ただ、僕自身はそういうセクシャルな表現も含めて、このアルバムで本当にプリンスが戻ってきた、という気がする。倒錯したセックスと愛のナルシズムで聞き手を赤面させるようなファンク・マジックが全面に押し出されている。この絶倫具合こそが、僕の知っているプリンスである。おかえり。