無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

漢の人生劇場。

365歩のブルース

365歩のブルース

 長年籍を置いていた坂本商店を離れ、「裸足の音楽社」という独立レーベルを立ち上げたイースタンユース。「友情とビジネスは紙一重」なんて歌詞があるし、この背景にどんな事実関係があったのかは気にはなるが、あまり積極的に知りたいとは思わない。なんにしろ、イースタンユースは文字通り裸一貫、自分たちの手でマネージメントから何からを手がけるやり方で再出発するということのようだ。
 1曲目「荒野に針路を取れ」は、いつになく快活な曲調を持つ、旅立ちの思いを歌った歌だ。しかし、曲名からも明らかなようにその行く先は荒野であるし、手にした切符は片道なのである。それでも旅は、人生は続いてゆく。進まなければならない。生きてゆかなければならない。何回だってやり直す。「365歩のブルース」というタイトルの持つ意味は、これまでの彼らの曲、アルバムが全てそうであったように、やはり重い。
 年を取るということは、どういうことなのだろう。知識や経験を得ていたとしても同じ失敗を繰り返すばかりだし、身の回りにまとわりつく責任や重荷は増えてゆくばかりで息苦しいことこの上ない。しかしそれでも、やはり生きてゆかなければならない。
 彼らの曲に描かれる物語は決してスマートではない。うまくいかない毎日を噛み殺し、悔しさと諦めに埋没しながらギラギラとした目で前を見るしかない、そんな男の心象風景だ。薄暗い駅のホームの錆び付いた手摺のような、そんなザラついた「底辺」の感覚。本作は、ここ数作の彼らのアルバムの中でも最も顕著にそうした感覚を呼び起こさせる。ジャケットの写真も、いい。颯爽と旅立ったつもりがいつの間にか袋小路。そんなくたびれた四十男が渾身の力でかき鳴らす魂の叫び。つまりは、それが「ブルース」なのである。沁みる。