無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

祝・復活。

黒船

黒船

 このアルバムは間違いなくサディスティック・ミカ・バンドの最高傑作であるのだけど、今聞いて驚かされるのはその音の良さ。このアルバムが発表されたのは1974年。とても30年以上前に作られたとは思えないクリアな音像はプロデューサーであるクリス・トーマスの貢献も大きかったのではと思う。
 アルバム・タイトルや曲名からもわかるが、このアルバムは江戸時代末期の黒船襲来をテーマとしたコンセプトアルバム的な作りとなっている。異国の文化を前にして戸惑う日本人の姿。西洋発の文化であるロックに対して何とか日本語を乗せようと悪戦苦闘する当時の日本人のミュージシャンたちの足掻きをそこに重ねたのかも知れない。ミカ・バンドは独特のユーモアを交えつつ、本作で見事に日本の伝統文化とロック・ポップミュージックを融合させている。日本人であることのコンプレックスも無く、ただただカッコいい音楽。当時彼らはロキシーミュージックの前座としてイギリス・ツアーを行っているが、日本人であることの物珍しさを抜きにしても圧倒的な盛り上がりだったようだ。その一端は、ライブ盤『ライヴ・イン・ロンドン』でも伺うことができる。
 「タイムマシンにおねがい」「どんたく」「塀までひとっとび」など、このアルバムには彼らの代表曲が多く納められている。そして特筆すべきはメンバーの演奏能力の高さ。中盤のインスト「黒船」連作での高中正義のギターソロなど、背中に電気が走るほどの凄まじさ。高橋幸宏のドラムがいかに正確で上手いかということも分かるだろう。小原礼のベースも含め、バンドのアンサンブルは完璧と言ってもいい。デビューアルバムは加藤和彦のワンマンバンド的なニュアンスも強いが、本作では他のメンバーの発言力も大きくなっているように見え、「バンド」としての色が強い。
 ビジュアル面のセンスも当時の日本ではひとつ抜けていたものだっただろう。その前を見ても後ろを見ても、サディスティック・ミカ・バンドのようなバンドはない。まさしくワン・アンド・オンリーなバンドだった。日本のロック史に燦然と輝く、異端という名の王道。