無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

RISING SUN ROCK FESTIVAL 2006 in EZO(5)〜朝日は夢の中〜

■2006/08/19@石狩湾新港
 米米終了後、EARTH TENT近くでnyoさんご夫妻と合流し、食事。今のところ見たものの感想や、この先の予定など話す。このとき食べたのは、ずっと気になっていた「豚の丸焼き」だったのだけど、これがメチャメチャ美味かった。あまりに気に入ったのでこのあとここを通るたびに3回くらい食った。豚の丸焼き最高。今年のベストメニュー。

 ゆっくり休んだあと、SUN STAGEに戻って吉井和哉。今年始めのツアーを見逃したので、この日が僕にとってはソロになってからの初ライヴ。黒のスーツを来た吉井は相変わらずの細身で、派手ではないがバリバリにオーラが出ていた。やっぱりカッコいいね、この人。新しいアルバムからの曲も交えつつ、「TALI」「CALL ME」「BEAUTIFUL」「WEEKENDER」など、シングルを中心にツボを押さえたステージ。淡々としているようで、後半に行くにしたがってどんどん演奏のテンションも会場の温度も上がっていく。ねちっこくいやらしいほどの盛り上げ方なのだ。もちろんイエモンとは違うが、こういうところに吉井の真骨頂を見る気がする。クライマックスは「FINAL COUNTDOWN」の大合唱からハイスピードの「LOVE LOVE SHOW」!このときの吉井はまさに煌びやかなライトを浴びたロックスターだった。大興奮の中、吉井とギターの菊地英昭がなにやら耳打ちしている。吉井はこんな感じのMCのあと、最後の1曲を演奏した。「石狩には本当に来たかった。呼んでくれてありがとう。本当なら、6年前に来るはずだったんだけど、(菊地を指して)この人が病気になったから来れなくなって。その時にやるはずだった曲をやります。」ラストは「バラ色の日々」。僕はそのイエモンがキャンセルとなった2000年、その直前のROCK IN JAPAN FESTIVALで大雨と風の中この曲を熱唱する吉井の姿がいまだに頭の中に焼きついている。その時の記憶がにわかにフラッシュバックした。

 そのままSUN STAGEに残り、ザ・クロマニヨンズ。この謎の新バンドは噂通り、ヒロトマーシーによるハイロウズ休止後のネクストアクションだったわけで、当然、スタンディングエリアはあっという間に満員になる。そういや、ROCKIN' ON JAPAN9月号のインタビュー記事はヒロトマーシーの絆の深さというようなものがビシビシ感じられて泣けた。バンド名をつけるときのくだりはちょっとウソみたいないい話。
 ヒロトは素肌に黒いジャケット、マーシーはいつものようにタンクトップにバンダナ。僕はフジのステージも何も見ていないので全ての曲はこの日初めて耳にするもの。その中で思った感想といえば、ハイロウズ以上にギリギリまでそぎ落としたロックンロールになっているということだ。歌詞も聞き取れた限りでは非常に平易な言葉だったし、単語レベルまで解体されているような曲もあった。前述のインタビューの中で、ヒロトマーシーがスタジオに入って「アナーキー・イン・ザ・UK」を2人で練習しているという話があった。楽器覚えたての中学生かよ、という感じだけど、まさにクロマニヨンズというネーミングも納得のプリミティブで野生的な本能のグルーヴがうねっていた。10曲くらいやったけど、ほとんどが2分か3分だったと思う。ヒロトの体みたいに、全くぜい肉の無いソリッドなロックンロール。新しいバンドを組むたびに、どんどんこの人たちはロックの純度を高めていく。奇跡的なことだと思う。
ヒロト  「北海道、勝ったねー(駒大苫小牧が決勝進出したこと)。明日も勝つといいねー。」(観客大歓声)
マーシー「オレは西東京出身だから早実応援するよ」
 おめでとう、マーシー(笑)。

 LOOPA NIGHTで踊ろうと思い、MOON CIRCUSへ。一足先に乗り込んでいた嫁と合流し、いかに矢野顕子のステージが素晴らしかったかという話を聞く(かわいかった、のだそうだ)。田中フミヤの硬質なビートで踊り、RYUKYUDISCOになるとにわかに人が増える。一瞬、今から卓球待ち?と思ったけどそうではなく、RYUUKYUUDISCO目当てのオーディエンスなのだ。嫁の話だと昨年は全然ここまで人が多くなかったみたいなので、この1年で評判をあげてきたってことなのだろう。沖縄テイストのビートは確かに個性的で面白く、非常にアッパーな空気を作っていた。なるほど、人気出るのもわかる。
 途中で抜けてEARTH TENTへ。ギターウルフ。ビリーが急逝したあと、生で彼らのライヴを見るのは初めてだ。ビリー亡き後もロックンロールし続けることを選んだセイジさんとトオルさんの生き様を見るつもりで足を運んだ。が、そんなセンチな思い入れなど粉々に粉砕する、This is ギターウルフな爆裂ステージだった。ギターの歪も音のでかさも演奏の粗さも特別すごかったんじゃないかというような、超絶ガレージパンク。「オールナイトでぶっとばせ」から始まり、あと、曲が何なのか判別がついたのは「ジェットジェネレーション」と「ワイルド・ゼロ」くらい。あとはもうとにかく轟音とノイズとテンションの洪水。客を引っ張り上げてギター弾かせるのはいつものことだが、この日のセイジさんはいつも以上に真面目に指導していたように思う。ステージ脇の鉄骨からのダイブも、見てるほうが心配になるほどの高さ。結果、彼らの生き様がこれ以上ないくらいに伝わる圧倒的なステージになっていたのだ。悲しみも、それを乗り越える辛さも、全てを呑み込むロッキンロール。涙出そう。

 MOON CIRCUSに戻り、卓球のDJを見る。疲れたので踊らずに座って気持ちよく見てた。嫁の言う通り、来年はこっちのエリアにテント張ろうかな。その方がいろんな意味で楽そうだな。嫁もDISCO TWINSの頭で限界だったらしく、無念のうちに休息。僕はひと休みした後、再びEARTH TENTへ。BACK DROP BOMB。深夜にもかかわらず、前列で待っている人間のテンションの高さはすごい。セッティング完了し、出てくるまでのその一瞬の静寂が何ともいえない雰囲気なのだ。「すごいものが来るぞ」的な。アルバムのリリース間隔は短くても3年という独自の時間軸で活動を続けるバンドだが、音楽も存在感も同じく、比類なきユニークさを持つバンドだと思う。「アティピカル」からスタートし、新作からの曲を中心に、ほぼ間隔をおかずに矢継ぎ早に演奏が続く。「Remind Me」で最初のクライマックス。「That's The Way We Unite」「In Order To Find The New Sense」と続いたあたりで、機材トラブルか、ギターの音が出なくなる。スタッフとギター田中氏で復旧を試みるがなかなか再開できず、その間白川のアカペラやMCで場をつなぐ。いい感じに温まっていたところだったので、この中断は残念だった。(白川も「長いスね」と言ってたが)数分間はあったその中断の後、「You Up Around」「Blazin'」などたたみかけ、再度クライマックスを作ったのはさすがだが、あのまま一気に行ってたら、という思いは拭えない。本人たちも残念だったろう。田中氏はよほど腹が立っていたのか、ギターのシールドやコードを引っこ抜き、全部フロアに投げて帰っていった。ちょうど僕のところにも飛んできたのだけど、さすがにかさばるので持って帰る気にはなりませんでした。
 「夜明けまで待つ?どうする?」という自問自答の後、体力的にやばいのでテントに戻る。嫁は既に撃沈。一応、携帯のアラームを1時間半後くらいにセットしたが、役に立たなかった。起きた時には周りのテントも少なくなっていた。今年はそれなりに夜明けは見れたみたいなので、ちょっと残念。まー、言いたくはないが体力的に最後までというのは辛い部分も出てきているのだけど、今年も見たいものは全て見れたので満足。たくさん食ったし飲んだし。天気以外、不満もほとんど無し。元々僕はフェスという非日常の空間で音楽以外のものは全て不便で当然、あればラッキーくらいの考えなので、会場の運営面でも細かいことをいちいち言うつもりはない(もちろん、主催者側が毎年改善努力を続けるのは当然だが)。今年は会場内コンビニも増えたし、ドコモブースでは携帯の充電もできたし、便利すぎると思ったくらいだ。昨年はFOMAの通話が繋がりにくいと思ったけど、今年はほとんど問題なかった。その辺改善されているのもいいと思う。ただ、確かに道端のゴミは増えた。日本のフェス最大の13分別と謳って盛り上げてはいたけど、残念ながらこれは客のマナーとモラルの低下が問題なのだろう。以前、アジカンのライヴ感想でも書いたけれど、フェスに行くということが特別なイベントではなく、毎年の恒例行事になった今では普段ライヴやフェスに来ない人も友人に誘われてとか好きな人が出るからという理由で会場に来るケースも多いだろう。そういう人の多くは(もちろん例外もあるだろうが)自分本位になってしまい、助け合うとかルールを守るとか、そういう部分でおざなりになってしまいがちなんじゃないか。昔は、それこそルールを守ってゴミを出さない、ケガ人を出さない、フェスを成功させないと来年続くかどうかわからないという中で自然と観客の共同意識やマナーが高まっていったのだ。フェスの黎明期はそういうものだったと思う。そういう時期は終わってしまったのだなあという寂しい気持ちも多少ある。こういうのは一朝一夕でどうにかなる問題ではないので、地道に啓蒙していくしかないとは思うのだが、何かが起こってからでは遅いので、主催者任せではなく一般の客も考えていかないといけないと思う。また来年楽しむために。