無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

リアルに生きてるか。

宇多田ヒカルUtada UTADA UNITED 2006
■2006/09/10@国立代々木競技場第一体育館

 会場で多分一番多かったのは20代の男女だと思うけど(カップル多し)、彼女のデビュー知ってるの?ってくらいの女子中高生や、逆にその親じゃないの?ってくらいの40代以上の方々も多かった。国民的アーティスト、と言えるような、幅広い客層が印象的だった。「ヒカルの5」など、単発のステージはあったものの、全国ツアーは実に6年ぶり。この日がファイナルということで、ステージの上から発せられる彼女のテンションも相当なものだった。
 「Movin' on〜」までの怒涛の展開に興奮するも、そこからは一転、バラード主体の構成にするなど、極端な場面展開が多かった。中盤はUtada時代(と言って良いのか)の『EXODUS』からの曲が並ぶ。ツアータイトルの「UTADA UNITED」には、宇多田ヒカルUTADAと繋ぐと言う意味もあるのだろう。世間一般の評価的には決して傑作と言うものではなかった『EXODUS』だが、ここ最近のシングル、そして新作での歌詞がとてつもないレベルに達していることを考えると、あのアルバムで彼女が英語で思いのたけを書き綴ったことは大きな意味を持っていたのかもしれないと思う。もちろん、彼女自身あのアルバムを失敗作だなどとは思っていないだろうし、それはこの日の堂々としたステージからも十分に窺い知れるものだった。
 UTADAの曲を含め、このツアーで初めて演奏された曲も少なくなかったと思う。新作に含まれている曲はもちろんそうだ。中盤ではチェロと彼女のボーカルのみというシンプル極まりない構成で歌ったのだが、正直、ここでの彼女のボーカルは最高といえるものでは無かった。高音部では声がかすれ、かなりきつそうに見えた。メロディーラインを変えている部分もあった。ごまかしが効かない分、剥き出しの宇多田ヒカルの歌声がそのまま会場に響く。それは、決して輝かしい、きらびやかな宝石のようなものではなく、くすんでいてもその内に生きる強さを秘めた、生々しさを感じさせるものだった。このパートが聞けただけでも、今日のコンサートに足を運んだ価値は十分にあった。人間・宇多田ヒカルのリアルがそこにあった。そこから先は、再び怒涛のヒットメドレー。MCでも今日でファイナルなんて信じられない、とその興奮を隠すことが無かった彼女だが、そのテンションそのままに歌いきった。アンコールでは、「これをやらないで帰れないよね!」と「Automatic」。そして、そのデビュー曲の後、ラストに、成長した自分の姿をファンの前で確認するかのように、自分の名前を冠した重要な曲を演奏した。
 完成されたアーティストの完璧なショウ、というよりは、一人の人間としての宇多田ヒカルが見えるコンサートだったと思う。それが意外でもあり、嬉しくもあった。そうであればこそ、新作メインのツアーというのも見てみたい気がする。あんなに生々しい言葉が並ぶアルバムは彼女自身としても初めてだし、今の日本のシーンにおいてもそうはないと思うから。それも、やるのであればもっと小さい、Zeppクラスのライブハウスがいい。まあ、実際は無理な話だと思うけど、そういう気持ちにさせるようなステージだったのだ。

■SET LIST
1.Passion
2.This Is Love
3.Travelling
4.Movin' on without you
5.Sakuraドロップス
6.Final Distance
7.First Love
8.Devil Inside
9.Kremlin Dusk
10.You Make Me Want To Be A Man
11.Be My Last
12.誰かの願いが叶うころ
13.COLORS
14.Can You Keep A Secret?
15.Addicted To You
16.Wait & See〜リスク〜
17.Letters
18.Keep Tryin'
<アンコール>
19.Automatic
20.光