無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

日本シリーズ総括

 北海道にファイターズが移転してきてから3年。まさかこんなに早くこういう時が来るとは思っていなかった。道産子としては単純に嬉しいし、本当に歴史的な優勝だと思う。素晴らしい。おめでとう。ありがとう。
 そして、長年のドラゴンズファンとしては、またしてもほろ苦い日本シリーズとなってしまった。2年前にはあと一歩だった日本一が、今回は指先にすら触れることができなかった。敗因を分析することはいくらでもできるだろうが、ただひとつ言えることは、ファイターズには新庄がいて、ドラゴンズには新庄がいなかった。ということじゃないかと思う。
 落合監督は敗戦の弁の中で「強者が勝つとは限らない」ということを言った。僕自身、ファイターズの日本一が決まった今となっても、選手個々の能力やチームの総合力としてドラゴンズがファイターズに劣っているとは全く思っていない。むしろその逆である。しかし、野球の勝敗というのは、時にそれ以外の部分で左右されてしまうことがあるということなのだと思う。それが野球というスポーツの人間くさいところでもあり、ドラマチックなところなのだとも思う。そして落合監督は「52年間の歴史という厚い壁に阻まれた。日本シリーズという雰囲気ではなかった」ということも言っている。僕の知る限り、「新庄」という単語は落合監督の口から出てきていない。彼のプライドが相手チームの個人選手名を出すことを許さなかったのではないかと思う。しかし、もし今回のシリーズが「日本シリーズという雰囲気ではなかった」のだとしたら、それは新庄という選手の存在と、彼を中心としたドラマがあったからだということは誰の目にも明らかだろう。
 シーズン序盤での異例の引退宣言からこっち、そのドラマは日に日に大きくなり、大きなうねりをあげながらクライマックスに向けて突き進んでいった。オールスター後、特に9月以降のファイターズの強さは特筆ものだろう。この日本シリーズまで、札幌ドームで4万人以上が入った試合は12連勝という異常な勝率。ファンの応援があれば勝てるとは限らないが、今年のファイターズに関しては明らかにホームの利があったことは間違いない。そしてその雰囲気を作り上げたのが新庄という選手だということだ。自身も記者会見でコメントしていたが、本当にマンガのようなストーリーだと思う。事実は小説より奇なりとはよく言ったもので、こんなストーリーをドラマなり小説でやろうものなら「こんなに都合よく行くはずがない。なんてご都合主義な話だ。」と言われて終わりだろう。金村の離脱と和解、復活と涙の謝罪という絶妙のサイドストーリーもそのドラマにスパイスを与える結果となった。チームの不協和音となってもおかしくない出来事も、プラスに転じてしまえる力がファイターズにはあった。レギュラーシーズン1位通過からパ・リーグ制覇、そして日本一と、最初から用意されたかのような物語の中で、選手たちも自分たちの力以上のものが背中を押しているような感覚があったのではないだろうか。
 「野球は筋書きの無いドラマ」とはよく言われるが、今年に限っては筋書きがあったのである。最初から。ドラゴンズには無かったそのドラマという大きなうねりが、ファイターズへの流れを作り、勝敗を分けたような気がしてならない。極端に言えば、今回の日本シリーズは確かに従来のシリーズとは異なり、全てが新庄の引退に向けてのカウントダウン興行のような趣だった。グラウンドでのプレー以外のところで相手に大きな流れが行き、自分たちのペースに引き戻せなかったのはバット一本でそのキャリアを築いてきた落合監督にとっては認めたくないことであっただろう。申し訳ないが、今となってはライオンズも、ホークスも、ドラゴンズも、物語の脇役だったと認めざるを得ない。何というか、本当にすごいシーズンだった。ファイターズと北海道のファンにとっては夢のような時間だった。北海道で開催される初の日本シリーズ、そして北海道のチームとして初の日本一と、プロ野球70年の歴史に残る偉業であることは疑いが無い(高校野球で言えば駒大苫小牧の優勝に匹敵する出来事だろう)。しかし、それ以上に北海道の人間にとっては記憶に残る優勝である。ドラゴンズファンの僕にとっても、悔しさよりも、自分の地元がこんなに盛り上がって、歴史に名前を刻めることを心から嬉しいと思う(裏切り者と呼ばれても仕方が無いけれど、偽らざる心境です。血の一滴まで道産子なので)。