無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

あくまでも本格派。

耳鳴り

耳鳴り

 恋愛における女の子の心情を歌った歌詞というのは、どちらかというと苦手な部類のものだ。正直言って、怖くて気持ち悪いのだ。不気味なのだ。僕には理解できないものだから。なので、「恋愛スピリッツ」のような曲は、本来個人的には苦手なはずなのだけど、不思議と引き込まれる。このアルバムにはそういう瞬間がたくさんある。というか、チャットモンチーというのはそういうバンドなのだということなのだろう。ほとんどが女性の視点で書かれた曲なのだけど、女性であるがゆえの甘えや特権とか、そういうものとはばっつり切り離された世界になっている。ここに書かれているのはある事象を人間全体のうちの半分から見た歌詞で、そのもう半分のうちの1人である僕がそれを受け取るということなのだ。最初から対等。面白い関係性だと思う。女性アーティストやバンドでこういう感覚になったことは今まであまり例がない。大抵の場合は変に意識しすぎてしまうのだ。
 全体として隙間の多いサウンドであるが、それを埋めようとしていないのもいい。隙間?ありますよそりゃ。だって3人だもん、みたいな感じ。ポップでキレのある前半から、次第にヘヴィーになっていく後半。どの曲にもカッコいい音を鳴らしたい、というシンプルな思いが貫かれている。どの時代にも、女の子が憧れるガールズロックバンドというのはあるものだけど、彼女らはその最新型であると同時に、男の子も憧れる存在になると思う。だって、ギター持ったらこういう音出したいと思うし、目指すだろ、というものを単純に彼女らも目指しているから。キュートな女の子3人組バンドというだけなら聞こうとは思わないが、彼女らの場合は全くそういうところを拠り所にしていない。単純に、ロックとして、ポップとしてどうだ、というものを目指している。その芯の通り方が清々しい。
 惜しむらくは、メロディーの引き出しがやや物足りないかなというきらいはある。あるけども、まだまだ発展途上ということで、どんどん芯を太くしていって欲しい。
 しかし、なんともセンスのいいアルバムタイトルだと思う。ホント。